今オフで最も注目された契約更改は、まさかの“逆サプライズ”となった。「二刀流」でチームの日本一に貢献し、投げては球界最速165km、打っては3割・20本塁打、胴上げ投手からMVPまで獲得する前代未聞の活躍を見せた大谷翔平(22)が、たったの7000万円アップの2億7000万円でサインしたのである。
さらに注目すべきは日本ハムが来オフ以降のポスティングシステムによるメジャー移籍を容認する姿勢を見せたことだ。大谷は会見で、
「大リーグに行きたいと思った時に自分の意志を尊重し、応援してもらえるのは嬉しい」と明かしている。球界の至宝の“流出”が簡単に認められる背景には、日ハムの球団事情がある。
「巨人や阪神、ソフトバンクなどでは選手の年俸総額に事実上、限度がありません。人気球団は放映権料やグッズ販売で収入があり、甲子園球場やヤフオクドームなど親会社が球場の営業権を持っているので、観客動員増がそのまま収益につながる。
それが日ハムの場合、札幌ドームの高額な利用料もあり、球団の収入には限界がある。そのため年俸総額にキャップを設けざるを得ない。予算は25億円といわれ、査定は絶対評価よりチーム内のバランスが優先される」(球団関係者)
つまり、大谷が活躍すればするほど、日ハムはそれに見合う金額が払えなくなり、メジャー移籍が確実になるということだ。
「FAでの移籍なら現行年俸の8割が補償金として移籍先から入るので高額年俸にするメリットもありますが、ポスティングの場合は譲渡金2000万ドルまでと決まっていて選手の年俸は関係ない。2億7000万円は日ハムにとっては妥当な額ですよ」(同前)
日ハムとしては、“日本で活躍すればすんなりメジャー行きを認める球団”という評価が広がることで、メジャー志向が強い次の若手スター獲得にもつながる。
これまでであれば、 “米国でたくさん稼げばいいじゃないか”という考え方も成り立ってはいた。大谷がメジャー移籍すればヤンキースの田中将大(7年、約160億円)を超える200億円以上の大型契約になるとみられてきた。しかし、今回、MLBと選手会が結んだ新協定では、25歳未満の海外選手の獲得に際して球団側が本人に支払う総額は約11億円程度に制限される。来オフを23歳で迎える大谷には、2年間この規定が適用される。
日本ではメジャー移籍をニンジンに“安すぎる年俸”を呑まされ、米国に行っても稼ぎが低く抑えられる―球界の至宝をそんな扱いにして、本当にいいのか。
撮影■山崎力夫
※週刊ポスト2016年12月23日号