国内

安倍首相の真珠湾訪問、日露領土交渉難航の埋め合わせか

真珠湾訪問は現職総理としては初

 安倍晋三首相は12月26、27日にハワイで日米首脳会談を行ない、オバマ大統領とともに現職の総理大臣として初めてアリゾナ記念館を訪れる。日本軍による真珠湾攻撃の犠牲者を追悼する施設だ。

「慰霊のために行く。日米和解の価値を発信したい」

 安倍首相が緊急記者会見で真珠湾訪問を発表すると、日本の大メディアは左から右まで礼賛報道があふれた。〈首相の真珠湾訪問「よき前例に」〉(朝日)、〈米国民、温かく受け止め〉(毎日)、〈同盟の価値、トランプ氏に示す〉(産経)。

 米国側も同様だ。ワシントンポストは「画期的」と報じ、安倍首相の歴史認識を「極右」と批判していたニューヨーク・タイムズでさえ〈オバマ大統領の広島訪問との事実上の相互訪問になる〉と歓迎した。

「開戦75年目の日米和解」といわれれば反対する者はほとんどいないだろう。だが、本当に「広島訪問」と「真珠湾訪問」は“等価交換”していい問題なのか。

◆「アッキー訪米」の謎

 広島、長崎への原爆投下で10万人以上の一般市民が犠牲になった一方、真珠湾では軍事施設に限定した攻撃で、巻き込まれた非戦闘員の犠牲者は数十人とされている。元外務省国際情報局長の孫崎享氏が指摘する。

「本来、真珠湾攻撃と原爆投下は別次元の問題であり、同列に論じることなどできません。一部の米国メディアは今回の真珠湾訪問が、オバマ大統領の広島訪問に対する“実質的な返礼”であることを強調しています。

 これは、『原爆投下は真珠湾攻撃に対する当然の報復である』という米国側の論理を、相互訪問によって日本政府が認めたと内外にアピールしたいからでしょう」

 そうした見方があるからこそ、安倍政権はこれまで一貫して相互訪問を否定してきた。首相自身、広島でのオバマ大統領との共同記者会見(5月)でわざわざ「ハワイを訪問する計画はない」と言明してみせた。

「総理は政権末期のオバマ氏の広島訪問と自分の真珠湾訪問を同等の扱いにはできないと慎重に考えていた。今年8月に昭恵夫人が私的にアリゾナ記念館を訪問した背景にも、できれば夫人の真珠湾非公式訪問でオバマ氏の広島訪問との釣り合いをとろうという判断があった」(安倍側近議員)

 それがなぜ、今になって真珠湾訪問に舵を切ったのだろうか。孫崎氏はこう分析する。

「安倍首相はオバマ政権が末期になるタイミングで、外交の軸足を米国からロシアのプーチン大統領との領土交渉に移し、12月15日の日露首脳会談で北方領土返還に道筋をつける大成果をあげるつもりだった。

 ところが、領土交渉は難航している。返還が遠のいたと判断したから、真珠湾訪問による日米関係強化に急に舵を切った。日露交渉の行き詰まりを真珠湾訪問のパフォーマンスで埋め合わせようという狙いでしょう」

 この時期の“サプライズ発表”となった理由がよくわかる。

※週刊ポスト2016年12月23日号

関連キーワード

トピックス

異例のツーショット写真が話題の大谷翔平(写真/Getty Images)
大谷翔平、“異例のツーショット写真”が話題 投稿したのは山火事で自宅が全焼したサッカー界注目の14才少女、女性アスリートとして真美子夫人と重なる姿
女性セブン
女優の広末涼子容疑者が傷害容疑で現行犯逮捕された(写真は2019年)
《体調不良で「薬コンプリート!」投稿》広末涼子の不審な動きに「服用中のクスリが影響した可能性は…」専門家が解説
NEWSポストセブン
いい意味での“普通さ”が魅力の今田美桜 (C)NHK 連続テレビ小説『あんぱん』(NHK総合) 毎週月~土曜 午前8時~8時15分ほかにて放送中
朝ドラ『あんぱん』ヒロイン役の今田美桜、母校の校長が明かした「オーラなき中学時代」 同郷の橋本環奈、浜崎あゆみ、酒井法子と異なる“普通さ”
週刊ポスト
現役時代とは大違いの状況に(左から元鶴竜、元白鵬/時事通信フォト)
元鶴竜、“先達の親方衆の扱いが丁寧”と協会内の評価が急上昇、一方の元白鵬は部屋閉鎖…モンゴル出身横綱、引退後の逆転劇
週刊ポスト
女優の広末涼子容疑者が傷害容疑で現行犯逮捕された
〈不倫騒動後の復帰主演映画の撮影中だった〉広末涼子が事故直前に撮影現場で浴びせていた「罵声」 関係者が証言
NEWSポストセブン
男性キャディの不倫相手のひとりとして報じられた川崎春花(時事通信フォト)
“トリプルボギー不倫”川崎春花がついに「5週連続欠場」ツアーの広報担当「ブライトナー業務」の去就にも注目集まる「就任インタビュー撮影には不参加」
NEWSポストセブン
広末涼子容疑者(時事通信フォト)と事故現場
広末涼子、「勾留が長引く」可能性 取り調べ中に興奮状態で「自傷ほのめかす発言があった」との情報も 捜査関係者は「釈放でリスクも」と懸念
NEWSポストセブン
筑波大の入学式に臨まれる悠仁さま(時事通信フォト)
【筑波大入学の悠仁さま】通学ルートの高速道路下に「八潮市道路陥没」下水道管が通っていた 専門家の見解は
NEWSポストセブン
広末涼子容疑者(時事通信フォト)と事故現場
《事故前にも奇行》広末涼子容疑者、同乗した“自称マネージャー”が運転しなかった謎…奈良からおよそ約450キロの道のり「撮影の帰り道だった可能性」
NEWSポストセブン
長浜簡易裁判所。書記官はなぜ遺体を遺棄したのか
【冷凍女性死体遺棄】「怖い雰囲気で近寄りがたくて…」容疑者3人の“薄気味悪い共通点”と“生活感が残った民家”「奥さんはずっと見ていない気がする」【滋賀・大津市】
NEWSポストセブン
自宅で亡くなっているのが見つかった中山美穂さん
《中山美穂さん死後4カ月》辻仁成が元妻の誕生日に投稿していた「38文字」の想い…最後の“ワイルド恋人”が今も背負う「彼女の名前」
NEWSポストセブン
山口組分裂抗争が終結に向けて大きく動いた。写真は「山口組新報」最新号に掲載された司忍組長
「うっすら笑みを浮かべる司忍組長」山口組分裂抗争“終結宣言”の前に…六代目山口組が機関紙「創立110周年」をお祝いで大幅リニューアル「歴代組長をカラー写真に」「金ピカ装丁」の“狙い”
NEWSポストセブン