ドナルド・トランプ氏が次期米大統領に当選して以来、金融市場は「円安・ドル高・金安」という図式が生まれた。金相場は、今後どう動いていくのか、金の動向に詳しい豊島逸夫氏が解説する。
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今後を見通すうえで、最大の問題は、トランプ氏の経済政策の全貌が見えていないことに尽きる。選挙戦ではインフラ投資を柱とした財政出動に大型減税、規制緩和といったメニューを掲げてきたが、野球にたとえれば「オープン戦」にすぎない。大統領に正式就任して初めて「ペナントレース」が始まるのだ。
そもそも同氏の言動は頻繁にぶれて一貫性がなく、ちゃぶ台返しは当たり前。金融政策に関しても、FRB(連邦準備制度理事会)のイエレン議長を更迭すると息巻いてきたが、どこまで本気なのか。予測不可能だ。
とはいえ、冷静に考えてみると、2017年の金相場は「強気」というのが私の見方である。
最大の根拠は、2011年にも浮上した米国の債務上限問題、いわゆる「財政の崖」にある。トランプ新政権が進めようとする財政出動や大型減税は財政赤字を膨らますことにつながり、それがまた米国が定める債務の上限に達すれば、上限引き上げ法案を議会で可決する必要がある。幸いにも大統領選と同時に行われた米議会選挙では上院も下院も共和党が過半数を握り、ねじれは解消されたため、今後債務上限問題が浮上しても議会で可決され、際限なく債務が膨らみ続けるのは想像に難くない。
そうなると、しっぺ返しは必ず来る。財政赤字の増大によってドルに対する信認が薄れ、ドル売りが加速。すなわちドル安である。2016年は利上げを遅らせた米国の金融政策に失望したドル安が進行したが、2017年は財政政策に失望するドル売り要因が膨らみかねない状況まで予想されるのだ。
トランプ大統領誕生によってレジーム・チェンジは起こったが、歴史は繰り返す。かつて米国ではレーガン大統領が大型減税と財政出動で国内経済を立て直す「レーガノミクス」を掲げて財政赤字を膨らませ、最終的にはドル安を招いた。あの時と同じように、カリスマ的なオーラを放つ大統領が登場して財政拡大に走れば、同じような道を辿るのは宿命ともいえる。
もうひとつ、2017年の金価格を予測するうえで付け加えておきたいのが、金融政策の行方だ。FOMC(連邦公開市場委員会)で利上げを強硬に主張するタカ派のメンバーが2017年に交代することでハト派色が強まり、利上げの判断がこれまで以上に慎重になることも予想される。
それによって引き続きドル金利が上昇せず、米国は財政政策と金融政策の両面でドル売り圧力に晒されることにもなりかねない。
そのようなシナリオを想定すると、ドルと逆相関関係にある金価格は上昇すると見た方が現実的だろう。2017年の上値は1450ドルというのが私の見方だ。