一国の総理大臣にこんな言い方は失礼かも知れないが、安倍晋三首相の外交姿勢はちょっと“尻軽”すぎやしないか。
昔の恋人(オバマ大統領)と今の恋人(プーチン大統領)、新しい恋人候補(トランプ氏)の間をあっちこっちと渡り歩く──その振る舞いは果たして、世界から歓迎されているのだろうか。
こと首脳外交では、乗り換えが早すぎるのは相手から“移り気”と見られる。米国の大統領選でトランプ氏が勝利したときも、安倍首相は真っ先に会いに行った(現地時間11月17日)。
そのトランプ氏は、今年5月、伊勢志摩サミット後のオバマ氏の広島訪問を「大統領は日本で卑劣な真珠湾の攻撃について議論しただろうか? 多くのアメリカ人の命が失われたのに」と批判してきた典型的な広島と真珠湾の等価交換論者だ。
だが、安倍首相は12月26、27日にハワイで日米首脳会談を行ない、オバマ大統領とともに現職の総理大臣として初めてアリゾナ記念館を訪れる。日本軍による真珠湾攻撃の犠牲者を追悼する施設だ。今回の急な真珠湾訪問決定には、“次の恋人”のトランプ氏も影響している。
「トランプ氏が大統領就任後に、『ハワイで首脳会談を』と真珠湾訪問を求めてくる可能性は十分あった。そうなると総理はいきなり謝罪外交から入らなければならない。それなら、オバマ政権のうちに等価交換に応じてトランプ氏の“怒り”を鎮めておいた方が得策だし、総理の面子も保てる」(安倍側近議員)
トランプ氏は「日本核武装論」や「在日米軍撤退論」など、日米安保の大幅な見直しに言及してきた対日強硬論者だけに、機嫌を損ねないように先手を打ったと見られる。だが、元外務省国際情報局長の孫崎享氏は逆効果だと見る。
「安倍首相がトランプへの配慮として真珠湾訪問で日米同盟強化をアピールするつもりなら大間違い。日本の首相の初の真珠湾訪問が政敵であるオバマ大統領の外交成果になるわけだから、むしろトランプ氏に槍を投げつけるようなもの。
かえって日本に米軍基地経費の負担増や集団的自衛権の強化を突きつけてきて、安倍首相は断われなくなるのではないでしょうか」
八方美人の安倍外交がどこまで成果をあげられるのか。国民がまだその果実を味わっていないことだけは確かだ。
※週刊ポスト2016年12月23日号