この『逃げ恥』はそんなキャッチボールをしている合間合間に、みくりと平匡それぞれによるモノローグ、すなわち、一人語りが入ることで、彼らが今、頭の中で何を考えたのか分かる構造となっている。
星野源は海野つなみさんの原作(講談社『Kiss』連載中)を読んだ感想をラジオ番組のインタビューに答えてこういっている。
「原作を読んでいる時はモノローグがすごく少なくて。『平匡はいま何を考えてるんだろう?』っていうところがすごく面白いところだったんですが。ドラマは脚本の野木さん(野木亜紀子)が最初からずっと、もうほぼ平匡のモノローグを書いていて。それによってすごく平匡の人間味みたいなものが最初から伝わる気がして。リアリティーのある存在になっているんではないかな? と思います」
少女漫画の実写化作品は、原作と同じようにヒロインの気持ちが語られていくことが多いが、この作品は男性側の心の動きもきちんと伝えることで、さらにドラマとしての奥行きが加わり、幅広い視聴者層を獲得できたのではないだろうか。
そんなモノローグの多用以外に原作と違う点としては、より2人が長くいる時間を作ったことだろう。例えば7話目、新婚旅行帰りの電車の中で津崎がみくりに突然のキスをした真意について、彼女が後日メールで問いただすシーンがある。ただ原作では彼女は骨折した母の看病のために帰省した実家におり、そこから、東京にいる平匡にメールする設定になっているのだが、ドラマでは同じマンションの隣同士の部屋でメールの打ち合いを延々8分間にわたってしている。
この壁一枚隔てた場所での不器用な「会話」は、気持ちを直接ぶつけられない2人の微妙な関係を象徴するシーンといえよう。