ある焼き鳥店店主がブログで「串から外してシェア」は凄く悲しい、串から食べるほうが美味しいのだから、外さずに食べてほしいと訴えた。この内容が反響を呼び、ネット上では串から食べる派と串外し容認派に分かれ、論争が続いている。もっとも、焼き鳥の食べ方の常識は昔とは様変わりした面がある。『やきとりと日本人 屋台から星付きまで』の著者、土田美登世氏が解説する。
「昔は串のままでかじりつくのが当たり前でしたが、平成に入り“オヤジギャル”がサラリーマンの聖地だった赤ちょうちんの居酒屋や焼き鳥屋に出没するようになり、焼き鳥を串から外す文化が生まれました。店側もそうした客層の変化を受けて、大正10年創業の老舗焼き鳥店『京橋伊勢廣』(東京都中央区)さんが、焼き鳥を串から外すための専用フォーク『チキナー』を開発したほどです」
では、ブログを書いた焼き鳥屋店主が主張するように、串を外す、外さないで味は変わるのだろうか。土田氏は「味は変わる」と言う。
「“串から外すと冷めやすいし、閉じこめた肉汁がこぼれてしまう”と嘆く料理人が多く、私もその意見に賛成です。でも、何より気分の問題。片手で食べるために串があり、わざわざ外して箸で食べる意味もわかりません。“肉を頬張る”という行為には高揚感がつきものですが、それを満たすのが串付きの焼き鳥なんです」
ただし、土田氏はこう付け足す。
「美味しく味わう前にこんな論争の方が過熱していては、焼き鳥が嘆いている気がしますけどね」
見た目を気にするか、味を重視するか。その判断は、焼き鳥が冷めてしまう前に。
※週刊ポスト2016年12月23日号