「世代間の公平を図るのに必要だ」と安倍晋三首相は年金法改正案の必要性を再三説いた。ならば聞こう。その法案審議の渦中に今国会で動き出した「議員年金」の復活計画は、議員と国民の公平を図るのに本当に必要なものなのか、と。
◆「国民年金だけでは老後の生活ができない」
議員年金復活について、多くの地方議員が理由として挙げているのが、「老後が不安」というものだ。
「以前は議員には国民年金、厚生年金にプラス議員年金があった。しかし、いまは市町村議から国会議員までほとんど国民年金です。われわれは昔のような特権的な議員年金をつくれといっているわけではなく、せめて一般のサラリーマンや公務員並みの年金に加入できないと老後の生活ができない」(関東地方の県議)
都道府県議の平均月給は約80万円、ボーナス(約3か月分)を加えると年収ざっと1200万円。それに地方議員には“第2の給料”とよばれる政務調査費が毎月数十万円、さらに議会に出席すると都議なら1日あたり1万円、市議でも数千円の日当(費用弁償)が支給される。報酬三重取りのおいしい仕事である。
これだけもらって「老後が不安」とは、“いい加減にしろ”といいたくなる。だが、特権があるから議員になった者は、廃止されたら不正に走る。
富山市議会では今年、議員報酬を月額60万円から70万円に引き上げたが、それでも政務調査費の不正が発覚して議員が大量に辞職した。元市議会議長は「議員年金廃止で老後の保障がなくなり、心配になった」と不正に手を染めた理由を語っていた。
だが、国民年金で足りないと思うなら、自分の年金を増やす前に、まず国民年金しかない自営業者など年金弱者のことを考えるのが政治家の責務ではないのか。
◆「地方議員のなり手がいなくなる」
「若者が議員になれない」「地方議員のなり手がいなくなる」という意見も多かった。堺市市議の渕上猛志氏はこういう。
「議員には4年ごとに選挙があって、身分は不安定で失業保険もない。私も子供が2人いて立候補しましたけれども、どれほどリスクがあることか。子供を持つサラリーマンが会社を辞めてこの世界に行くなんて言い出したら、目を覚ませよ、って思うでしょう。年金がないことでどれだけ政治の世界からいい人材が零れ落ちているか。せめてサラリーマン並みの老後が見えるようにすることが、議員特権だと思いますか?」
言い分は分かるが、そもそも議員には定年も雇用契約もない。選挙を「就職活動」と考え、議員に生活の安定を求める姿勢が、お手盛りで議員報酬を上げながら、全国で政務調査費の不正が絶えない状況を生んでいるのではないか。
■取材/福場ひとみ(ジャーナリスト)
※週刊ポスト2016年12月23日号