台湾映画の特色のひとつは、思春期の少女を主人公にした秀作が多いこと。「藍色夏恋」(2002年)「言えない秘密」(2007年)「GF*BF」(2012年)、最近では「若葉のころ」(2015年)などが思い出される。まだ大人になりきれない、セックスを知る前の少女たちのういういしい恋や憧れを描く。ヒロインの女学生はたいていショートヘア。制服は白のブラウス。清潔感がある。
本作は2015年、台湾で大ヒットした青春ラブストーリー。コメディになっているので青春映画にありがちな純愛の押しつけがない。主人公を演じるビビアン・ソンは美少女ではないが、隣りの女の子の親しみやすい可愛さがある。ボサボサの髪の毛にメガネ。「どうせ私はもてない」とあきらめているためか、あまり身なりにかまわない。容貌に自信がない上に、勉強が出来るわけでもない。失敗ばかりする。
三枚目だが「でも、まあいいか」という気の良さがある。この年齢の女の子らしく、アイドル(香港のスター、アンディ・ラウ)に憧れて写真を大事にしている。まだ恋愛と憧れの区別がついていない。この女の子の冴えない姿が、スラップスティック・コメディのようにスピーディに描かれてゆき、笑わせる。
三枚目の彼女が、ひょんなことから、学校一の美少年と、学校一の不良と親しくなる。「えっ、私って、こんなにもてた!?」。そのびっくりぶりがまた愉快。彼女自身は美少年に憧れているが、不良も付合ってみると意外にいいやつで、プールに沈んだ彼女を助けてくれる男気もある。
不良はスポーツが得意。喧嘩も強い。「喧嘩の強い男の子って格好いい」。おまけに、つらい過去があるらしい。これも女の子にとっては大きな魅力。気がついたら、いつのまにか不良のことが好きになっている。「ひょっとして不良のほうも私のことが!?」。
女の子が、おしゃれに目覚め、日本の女性誌を参考に髪型を変えるところなど、日本びいきぶりが自然に出ている。不良は日本の内田有紀と酒井法子のファン。九〇年代、台湾の少年少女たちに日本が近くなっている。
最後、大人になってから、女の子が不良と再会する場面ではアンディ・ラウ本人が特別出演。女の子は、恋も憧れも実って、「こんなに幸せになっていいの!?」とびっくりするのがまた可愛い。
◆文/川本三郎
※SAPIO2017年1月号