一般的に「高血圧」が健康に問題を与えると認識されがちだが、逆のパターンもある。会社員男性・Aさん(52)は、同居する80歳の父親を緊急搬送した経験を振り返る。
「夕食後に立ち上がった父が少しふらついたんです。『いつもの貧血だよ』というので特に心配していなかったのですが、そのままトイレに向かおうとした矢先に“バタッ”と倒れた。呼びかけても返事がなく気を失っていました。すぐに病院に搬送、脳梗塞でした」
一命は取りとめたものの、少しでも措置が遅れていたら危なかったという。Aさんの父親が脳梗塞で倒れた原因は「低血圧」だった。『本当は怖い「低血圧」』の著者で、千代田国際クリニックの永田勝太郎医師がこう解説する。
「低血圧とは、上(収縮期)の血圧が100mmHgを下まわる状態を指す、れっきとした疾患です。脳梗塞や心不全など重大疾患を引き起こす原因となる。それだけでなく、めまいや立ちくらみなどの症状を伴うため、高齢者が転倒して骨折や寝たきりになってしまうケースが後を絶ちません。
高血圧患者は全国に1010万人といわれるが、低血圧の患者数は、私の独自推計によれば高血圧を上回る約1700万人いると考えられる。全国民でみれば、女性の22%、男性でも8%にのぼります。にもかかわらず、低血圧は、高血圧のように健康診断で注意喚起されることはほとんどありません」
低血圧は、気温の変化などにより突然起こる「急性」と、常時血圧の低い状態が続く「慢性」に分けられる。高齢者が気をつけるべきは、慢性に分類されるうち「起立性低血圧」と「食後性低血圧」、そして急性の「入浴時低血圧」の3つだ。特に怖いのが「起立性低血圧」である。前出の永田氏が説明する。
「横になった状態から立ち上がったとき、上の血圧が21mmHg以上下がるような状態が長く続くことを『起立性低血圧』といいます」
起立性低血圧には恐ろしい研究報告がある。2015年、英国のクリストファー・クラーク医師らの研究グループが約1350人を対象に10年間にわたり死亡率を調査したところ、起立性低血圧患者は、そうでない人に比べて心疾患、脳卒中などの死亡率が約2倍だった。
「起立性低血圧は、頸動脈にある血流を感知するセンサーのような器官が、動脈硬化などによって作動しないことにより起きる。立ち上がった時に脳に血流を送ることができず脳梗塞などが起きるのです。また、突然ガクンと意識を失うので、打ち所が悪かったり、事故に巻き込まれたりして亡くなるというケースも少なくありません」(永田氏)
※週刊ポスト2016年12月23日号