年末年始はじっくりと本を読む良いチャンスだが、本読みの達人が選ぶ書は何か。明治大学特任教授・山内昌之氏は、現在の米中関係を読み解く書として『米中もし戦わば 戦争の地政学』(ピーター・ナヴァロ・著/赤根洋子・訳/文藝春秋/1940円+税)を推す。山内氏が同書について解説する。
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次期米大統領のトランプは、台湾の蔡英文総統と電話で会談し、中国への強硬姿勢を示した。これは、貿易収支や北朝鮮の問題をめぐり、中国政府から譲歩を引き出す演出かもしれない。しかし、危険な賭けであることは間違いない。
米台の首脳は1979年の米中国交正常化以来、じかに接触を図っていなかったからだ。トランプの姿勢は中国を刺激したが、台湾を取引のカードにしないとも限らない。他方、中国の方では国際ルール違反や軍事的脅迫など他国から嫌われる行為を日常から繰り返している。
本書は、「戦争の地政学」という副題を付けているが、心理戦から教育戦に至るまで中国の多面的な挑発活動を手際よく整理しており、日本も2017年にますます圧力を受ける中国の強権ぶりがシミュレーションや設問解答の形式でよく描かれている。なかでも、日本を威圧するサイバー戦争の力はもとより、三戦の巧みさは日本を圧倒している。
その第一は、心理戦であり、外交圧力、風評、嘘、嫌がらせを使って不快感を表明し覇権を表明するなどはお茶の子さいさいなのだ。
第二は、メディア戦に他ならない。ワシントンにつくった中央電視台(CCTV)のスタジオは、ニセCNNともいうべきであり、本物のニュースに宣伝をまぎれこませ4000万以上の米国人をだましているというのだ。
第三は、法律戦であり、現行の法的枠組みの中で国際秩序のルールを中国の都合に合わせて勝手に解釈し平気で書き換えることも辞さない。
中国が多国間協議を嫌い、二国間協議でフィリピンやベトナムを抑え込もうとするのは常套戦術である。ASEAN諸国が中国に抑え込まれるのは多国間協議をできずに、個別の利害につけこまれるからだ。トランプと付き合う日本は、台湾を切り札にしかねない米中の「大取引」に反対し、日本を両国の手駒にさせない決意を改めて固めるべきだろう。
※週刊ポスト2017年1月1・6日号