「経済の千里眼」の異名をとり、経営者や大口投資家から絶大な支持を受けるのが、国際金融コンサルタントの菅下清廣氏だ。2017年1月に最新著『世界マネーが狙う「大化け日本株」』を上梓する菅下氏が、トランプ政権の動きをどう分析するのか。菅下氏が解説する。
* * *
「トランプ相場」が到来した。私はウォールストリートで働いていたので知人も多いが、当初は警戒していたドナルド・トランプ大統領誕生に対して、選挙翌日には早くも歓迎ムードに変わっていた。
理由はいくつかあるが、まずヒラリー・クリントン政権であれば金融規制の強化や金持ち増税、法人増税が覚悟されていたのに対し、トランプ氏は真逆の政策を打ち出しそうだからだ。それに加え、大規模な財政出動とインフレ政策も期待される。ダウ平均は選挙直後に過去最高値を連日更新した。
トランプ氏は実業家であり本業は不動産だ。当然、インフレ政策と公共投資には積極的だろう。意地悪な言い方かもしれないが、トランプタワーが値下がりするような政策はやるはずがない。
確かに懸念がないわけではない。トランプ氏は、オバマ政権が掲げてきたアジア重視の外交姿勢を転換すると示唆しているし、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)にも反対している。日本経済にとってネガティブな政策を打ち出してくる可能性は十分ある。
なかでも注視すべきはTPPへの対応だ。今世紀初頭、著名投資家のジム・ロジャーズ氏は3つの予言をした。(1)金の上昇、(2)中国の時代到来、(3)ドルとアメリカの凋落─の3つだったが、(1)と(2)は見事に的中したものの、今のところ(3)は外れている。
ロジャーズ氏だけでなく、多くの専門家がアメリカの凋落を懸念していたことは事実だが、それでも世界のリーダーであり続けられたのは、強大な経済力や軍事力だけでなく、100年近くにわたって世界の多国間協力、多国間秩序を作り、育て、守ってきたからだ。
IMF(国際通貨基金)や世界銀行、WTO(世界貿易機関)などが代表例だが、そのアメリカが保護主義に転じて他国との関わりを拒否し、同じ秩序を重んじてきた同盟国を敵視することになればこれは小さくないレジーム・チェンジ(体制変換)になる。
しかし、だからこそトランプ政権は簡単には自由貿易に背を向けられないはずだ。同氏を支持した白人ブルーカラー層は、外国製品が入ってくるからアメリカ製品が売れないとか、中国人が安い賃金でアメリカ人の仕事を奪っているといった単純な説明を信じて投票したかもしれない。だが、トランプ氏自身は国際的にビジネスを展開してきた人物だけに、本気でそんな前世紀の経済学を信じているわけではないだろう。
私が注目しているのは、トランプ氏がどんな経済ブレーン、経済政策チームを任命するかだ。人選には共和党も深く関与してくるはずなので、そうそう無鉄砲な人事も政策もできはしない。
結論からいうと、紆余曲折はあるかもしれないが、自由貿易体制は守られると思う。それがアメリカ経済発展の道であるし、それによって日本とともに世界経済の中心として投資マネーを集めることができるからだ。