首都圏の新築マンションの購入者により利便性を求める傾向が出てきている。その背景には何があるのか、不動産の市況調査を手がける東京カンテイ市場調査部の井出武・上席主任研究員が解説する。
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東京都内では新築マンション価格の動きが二極化しており、供給数にも濃淡がある。建設コストが上昇し、価格が高くなりすぎた新築物件の供給を先送りする動きが目立った2015年に続き、2016年も1~8月までは全般的に供給数が非常に少なかった。
しかし、その後9月ごろから、都下(23区を除いた市町村)や郊外を中心に、3000万円台後半から買える大型物件などリーズナブルな価格設定の新築マンション物件のラインナップが増える傾向が出てきている。
2015年はデベロッパー側が都心の好立地での富裕層向け新築物件の建設を優先していたため、郊外型物件は供給が進まず、絶対数が足りなかったという背景がある。買いたいと待っていた人が多くいたところに、手が届きそうな値ごろ感の新築物件が登場し、売れ行きも非常に好調という情報を耳にする。
23区内でも北区王子に5000万円台中心の大型物件の販売が開始され、300戸を超える第1期1次供給の契約率は約95%に達するなど反響が非常によかった。マンションから徒歩5分の位置にある駅が東京駅直通(ダイレクトアクセス)など利便性がよく、ファミリー層が「これなら買えそう」という価格を演出した物件だ。通常、都心にこのくらい近いエリアだと7000万円~8000万円という価格が多かったため、割安感がより際立ったといえる。
実は今、この「東京駅ダイレクトアクセス」や「大手町駅ダイレクトアクセス」、「駅から徒歩5分以内」が、売れるマンションのキーワードとなっている。購入者の傾向が、利便性重視の買い方に変化しているためだ。かつては1時間半の通勤圏は一般的だったが、現在はドアトゥドアで職場まで1時間以内でないと、マンションはなかなか売れない状況のようだ。
実際、埼玉県や千葉県などの都心から1時間以遠の地域では、新築マンション物件自体の供給が少なくなっている。輸入資材の高騰などで新築マンションの建設コストは上昇しているものの、分譲価格に転嫁できない理由が郊外にはある。郊外では戸建てとの競合が起こるが、パワービルダー(建て売り分譲住宅業者)が低価格路線をとっているため、価格を上げると戸建てに負けてしまうのだ。
東京カンテイの調査で過去2年間の戸建ての価格動向データをみると、郊外の各地域で3~5%程度しか上昇していない。これは地価の上昇によるものと思われる。戸建てとの競合を気にしないで値付けができる都内と異なり、通勤圏が1時間以遠のエリアでは価格を上げられない、上げられないから供給できないという悪循環に入ってしまっているのだ。
一方、都心へのアクセスがよい台東区や墨田区などの「下町エリア」の価格はまだ上がっており、割安感は薄れてきている。神奈川県では、川崎市と横浜市の中心部の価格が高値圏まで上昇しているが、ニーズはまだ非常に高いレベルにある。