年末年始はじっくりと本を読む良いチャンスだが、本読みの達人が選ぶ書は何か。作家の嵐山光三郎氏は、歴史物語を読み解く書として『謹訳 平家物語[一]~[四]』(林望・著/祥伝社/1600~1800円+税)を推す。嵐山氏が同書を解説する。
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祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響あり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰のことはりをあらはす……と巻頭だけは知られている『平家物語』だが、その中味はだれも知らないお話を、わかりやすくリンボウ先生が現代語訳した。
飛ぶ鳥を落とす勢いがあった平家一族の滅亡を、琵琶法師という演者が弾き語る歴史物語である。祇園の寺には無常堂という病気の僧のためのお堂があり、そこの鐘の音を聞き、いかほど栄華を極めた人でも、最後は滅亡してしまうことを知る。
リンボウ先生は落語や講談本も読んで、名調子で語りおろす。したがって、声を出して音読すると「活きたお話」がつぎつぎと飛び出す。第一巻(「祇園精舎」から五十二話)、第二巻(「厳島御幸」から四十二話)、第三巻(「清水冠者」から五十一話)、第四巻(「首渡」から四十九話)まで、独立した歴史短編エピソードが入っている。
どこから読んでも面白く、人情話あり、活劇あり、笑いあり、で一気に読めます。一巻では、清盛が寵愛した遊女「祇王」の悲話、二巻は人妻を殺害した荒法師「文覚荒行」、三巻は木曾義仲が平家軍勢をうち負かす「倶利迦羅落」、第四巻は弓の名人「那須与一」、「壇浦合戦」が痛快。
源平のスターたちが勢ぞろいして、暴れまわる。平清盛は悪者に見られがちだがじつは人情家で、若き頼朝や義経の命を助けるが、それが仇となって亡ぼされてしまう。平家よりも源氏のほうが残虐で執念深いこともわかる。歴史は、こういったエピソードによって活写されてきた。
ぼくらの世代は「歴史のお話」集を学んできたから、日本中どこへ行っても史跡になじむことができる。ということで、東京・日比谷図書文化会館で、リンボウ先生の『平家物語』朗読(ローローと読んでうまい)と、嵐山との熱血対談講演会をやりました。
ホールはレキジョ(歴史愛好女子)が超満員で、熱気ムンムンでした。二〇一七年も「盛者必衰」ですからね。
※週刊ポスト2017年1月1・6日号