年末年始はじっくりと本を読む良いチャンスだが、本読みの達人が選ぶ書は何か。経済アナリストの森永卓郎氏は日本経済を読み解く書として『株式会社の終焉』(水野和夫・著/ディスカヴァー/1100円+税)を推す。森永氏が同書を解説する。
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2016年の最大の事件は、トランプ大統領の誕生だった。トランプ政策が日本経済に与える影響は、三つある。第一は、駐留米軍費用負担の大幅増だ。すでに日本は年間6千億円もの負担をしているが、トランプ氏は「日本は半分しか負担していない」と主張しており、日本の負担増は最大で6千億円に達する可能性がある。
第二は、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の崩壊だ。米国抜きでTPPは発効しない。しかしトランプ氏は、代わりに二国間交渉をすると明言している。そこでは、TPPよりはるかに厳しい市場開放が求められるだろう。
そして、日本経済に最も大きな影響を与えるのが為替政策だ。トランプ氏は、安倍政権の円安誘導を一貫して非難し、それを許さないとしてきた。円安誘導というのは、アベノミクスの根幹である金融緩和策のことだ。だから、米国の下僕である日本は、トランプ政権下で、もう金融緩和ができなくなる。それは、アベノミクスが終焉を迎えることを意味する。
本書のなかで、著者は物価が下落を続けていることを根拠にアベノミクスは失敗に終わったと断じた。私は、それは間違っていると思った。2015年の原油価格下落、2016年の円高という特殊要因がなくなる2017年は、デフレ脱却の年になるとみていたのだ。しかし、それはトランプ大統領の誕生で幻に終わった。これから、じわじわと円高が進み、日本はデフレ地獄に舞い戻るだろう。
そのとき、我々はどう行動すればよいのか。本書は、成長へのこだわりを捨てるべきだと諭している。企業は、過剰な内部留保を国庫に戻して、減益計画を作る。国民は、「より速く、より遠くに、より合理的に」から「よりゆっくり、より近くに、より寛容に」に考えを切り替える。
トランプ政権で日本経済が縮小傾向になったとしても、やれ成長戦略だの、景気対策だのと、じたばたせず、身の丈に合った暮らしを淡々としていく。2017年は、そうした経済社会への大転換期になるのではないか。
※週刊ポスト2017年1月1・6日号