トルーマン大統領のもとにやってきた部下が「広島への爆撃は完璧な成功です。これまでどの実験よりも素晴らしい結果でした」と電信文を読み上げる。すると大統領は、「これは歴史上、最も偉大な成果だ」と顔をほころばせ、部下と握手を交わす──これは米国でベストセラーとなっている“ノンフィクション作品”に登場する一場面だ。
タイトルは『Killing the Rising Sun』(以下、『キリング』)。著者のビル・オライリー氏は米FOXテレビのニュース番組でアンカーマンを務める保守系コメンテーターである。表題にある「ライジング・サン」はもちろん日本を指しているから穏やかではない。現地紙記者が解説する。
「9月に発売された同書は約3か月で50万部に達した。内容は、同書の副題『第二次大戦で米国は日本をどう屈服させたか』の通りです。ノンフィクション作品に分類されているものの、再現ドラマ風に描かれていて、場面がペリリュー島、硫黄島からワシントンの大統領執務室、東京の皇居内といった具合に章ごとに次々変わりながら展開します」
冒頭で紹介した描写からわかるように“勝者の論理”が全面展開される作品だ。米国政治に詳しい中岡望・東洋英和女学院大学客員教授が解説する。
「オライリー氏の著作は、インテリ層や専門家向けというより大衆向けのものです。過去の著作も含めて非常に人気が高い。今回の『キリング』の基本メッセージはシンプルで、原爆投下の正当化です。“ペリリュー島や硫黄島で多くの米兵が死んだ。武士道精神など特殊な倫理観を持つ日本人は最後の一人まで戦うといっているから、米兵の犠牲を少なくするために原爆投下する”というロジックです」
背景には5月に広島を訪問したオバマ米大統領への批判があるようだ。
「2009年のプラハでの核軍縮演説も、広島訪問も米国の保守派は快く思わなかった。オバマ氏の広島訪問を批判したトランプ氏が大統領選に勝ったことからもわかるように“原爆投下は正当な行為”という価値観は根強い」(前出・現地紙記者)
このベストセラー本にあるような記述が“アメリカの本音”ということか。
※週刊ポスト2017年1月1・6日号