年末年始はじっくりと本を読む良いチャンスだが、本読みの達人が選ぶ書は何か。評論家の坪内祐三氏は、アベノミクスを読み解く書として『バブル 日本迷走の原点』(永野健二・著/新潮社/1700円+税)を推す。坪内氏が同書を解説する。
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どうやらアベノミクスは不発に終わったようで、私はほっとしている。アベノミクスの成功すなわちバブル景気の復活は想像するだけで恐ろしい。
バブル時代を一九八五年から九〇年までとしよう。私は大学院を一九八六年三月に修了し、ニートな時代を経て、一九八七年九月に『東京人』編集部に入り、九〇年九月末、同編集部をやめた。
バブルという言葉はあとから付けられたもので、当時はそういう呼び方はなかったはずだが、私はとても居心地が悪かった。しかし一方でその恩恵もこうむっていた。ニートでいられたのはダイヤモンド社の社長であった父のおかげだし、手取り二十万弱の安月給で充分生活出来たのも実家暮しだったからだ。
『東京人』の編集者としてバブル景気というものが実感出来た。私がちょうど入った頃に出た緊急増刊『東京湾ウォーターフロント』特集号はバカ売れした。編集長の粕谷一希をはじめとするスタッフは、いわゆる“街殺し”を心良く思っていなかったけれど、東京都の発行する雑誌だから仕方なかった。『東京大改造の時代』という増刊号も売れた。校了が近づく頃になるとユウウツだった。
当時『東京人』の編集室は飯田橋にあった。チェックしたゲラを市ヶ谷の大日本印刷に届ける時には終電は終わっている。めったに走って来ないタクシーをつかまえて、市ヶ谷の大日本印刷を経由して世田谷の赤堤(私の自宅)まで、と言っても乗せてもらえなかった。その時間、一万円以下の客はカスだったのだ。私は深夜喫茶で始発を待った。それが私にとってのバブルの時代だ。いま振り返るとかえって良かったと思う。
しかしバブルの時代を知らずアベノミクスに期待を持った人たち(特に若者)にその実態を知ってもらいたい。そのための最高の資料がこの一冊だ。
※週刊ポスト2017年1月1・6日号