2016年、創業家の存在の大きさを改めて世間に知らしめたのが出光興産(出光家)とセブン&アイ(伊藤家)をめぐる騒動だった。出光は、シェル石油との合併を創業家が反対して一旦頓挫、セブン&アイは「セブン-イレブン」を発展させた鈴木敏文名誉顧問(前会長)の次男・鈴木康弘取締役が、創業家との争いに負け、12月30日付で退任する見通しとなった。
両家の力の源泉となっているのが株である。伊藤家は1割、出光家は3割超の株式を持つ筆頭株主だ。
実は日本には、創業家が大株主であり続ける「ファミリー企業」が数多く存在する。ファミリービジネスに詳しい日本経済大学大学院教授・後藤俊夫氏の調査によれば、2015年3月の時点で、上場企業3586社のうち、株式の10%以上を創業家一族が握る企業は1377社にのぼる。
そのうち、特別決議の権利を持つ「66.4%以上」の株を持つのは52社、そのほかに拒否権を行使できる3分の1以上を保有する企業は576社もある。
これほど多くのファミリー企業が存続している背景には、ファミリー企業ならではの「3つの強み」があるからだと後藤氏は語る。
「1つ目は、個人保証など会社と自分が一体化しているため、創業家経営者は責任を持って経営に当たれること。だから“リスクテイキング”ができる。企業にとって必要な対応を、決意を持って判断できるということです。
2つ目は“天の声”による迅速な決定ができる。これは一瞬の判断が勝敗を分けるビジネスの世界では非常に大きなポイントです。
そして3つ目は長期的な視野に立った判断ができること。1年ごとの業績で判断されがちなサラリーマン社長と異なり、地位が安定しているため長期的な事業にも乗り出しやすいのです」
ただし創業家の支配力は、何もしなければ年月とともに徐々に弱まっていく。上場企業の場合、増資などを繰り返せば創業家の持ち株比率は小さくなる。それと並行して、世代交代が進めば相続税対策などでさらに持ち株は減っていくからだ。
「そのことを我々は“重力が働く”と称しています。重力があるから、自然とモノは上から下に落ちていく。ファミリービジネスを持続させるためには、“抗力”が必要で、創業家はファミリービジネスならではの強みを発揮し続けなければなりません。それぞれの創業家が持つ“抗力”こそが、その企業の文化であり、成長のノウハウなのです」(同前)
日本の上場企業の3分の1以上を占めるファミリー企業は、日本の成長エンジンであり続けられるだろうか。
※週刊ポスト2017年1月1・6日号