2016年の日本経済界を揺るがした大企業をめぐるニュースの多くには、「創業家の強い影響力」という共通点があった。時に成長を押し上げる原動力になり、時に抵抗勢力になり、時に経営を危うくする。「畏るべき創業家」を解剖する。
非上場としては日本最大級の企業がサントリーだ。この会社のガバナンスは、創業者一族の鳥井家と佐治家が握っている。「佐治」は創業者、鳥井信治郎の母方の姓で、信治郎の次男・敬三が養子になったため佐治姓を名乗るが、どちらも創業者の直系である。
サントリーHDの約9割の株を保有しているのが一族の資産管理会社「寿不動産」だ。その寿不動産は、役員を創業家一族が占め、株式の多くを鳥井家・佐治家の関係者が保有。株主にはサントリー芸術財団とサントリー文化財団も名を連ねている。これら財団の理事もやはり一族関係者だ。
サントリーの社長も創業者の鳥井信治郎から数えて4代目まで、鳥井家・佐治家の直系が務めてきたが、2014年に異変が起きた。“プロ経営者”と呼ばれる前ローソン社長の新浪剛史氏が招聘され、5代目にして初めて非創業家の社長が誕生したのだ。
ただし、この人事は「脱創業家」を意味するわけではないと『経済界』編集局長の関慎夫氏は解説する。
「新浪社長は中継ぎで、その次の社長は、創業家の鳥井信宏副社長であることは、社員の誰もが知っているのです。そのために、外からプロ経営者である新浪社長を持ってきたわけです。
創業家の会社のいいところは、次のトップが誰になるのかがはっきりしていること。社内政治に振り回されず、社員が安心して仕事に集中できる。経営者も長期的なビジョンをもって経営をしやすい」
前出の資産管理会社「寿不動産」でも、2016年3月に佐治信忠氏が退き、鳥井信宏氏が社長に就任。すでに創業家社長復活への地ならしは始まっている。
※週刊ポスト2017年1月1・6日号