トランプ政権でアメリカの外交政策が大きく方針転換する可能性がある。これまでアメリカは多額の軍事費を使い、「世界の警察官」としてふるまってきた。しかし、オバマ大統領はすでに世界の警察官をやめると宣言した。トランプ外交はそれを加速すると思われる。大前研一氏は世界はいっそう混迷を深めると指摘する。
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トランプ氏はNATO(北大西洋条約機構)について「時代遅れな存在」「加盟国はアメリカの気前の良さに感謝していない」と批判してきた。もし、アメリカがNATOを離脱したら、EUはロシアの脅威で背中が寒くなる。ウクライナ問題が起きた時、EUがロシアに対して経済封鎖を行うことができたのも、バックにアメリカがいたからだ。
NATOからアメリカがいなくなると、EUはロシアに対するオプションが非常に限られてくるので、前述の中国に対する日本のようにロシアとの間で“疑似”安保条約のようなものを結ぶ必要があるかもしれない。フランスはナポレオンで、ドイツはヒトラーでロシアに敗北している。アメリカの積極的な軍事支援がなくなればこのトラウマが蘇り、ロシアとは友好関係を結ばずにはいられない心境になるだろう。
その場合に重要になってくるのはトルコだ。トルコはNATOに加盟しているが、エルドアン大統領は、アメリカやEUの一部からクルド人の人権を侵害している、独裁化していると批判されているため、非常に反発している。この問題がこじれたら、トルコが欧米との絆を切ってロシアと手を組む可能性もあると思う。
トルコとロシアの関係は、昨年11月のトルコ軍によるロシア軍機撃墜事件で一時冷え込んだが、エルドアン大統領が撃墜機の遺族に謝罪して修復した。もし軍事大国のトルコがロシアと組み、さらにアメリカもNATOを離脱するとなれば、ヨーロッパの安全保障は大きく揺らぐことになる。
※SAPIO2017年1月号