サッカー元日本代表の岡野雅行(44)と聞けば、鮮烈な記憶が蘇ってくるサッカーファンも多いだろう。
“野人”のニックネームを持ち、カズ(三浦和良)やゴン(中山雅史)、ヒデ(中田英寿)ら錚々たるメンバーと日の丸を背負ってピッチに立った。そして、1997年のフランスW杯予選では、日本を初めて本戦出場に導く決勝Vゴールを決めた。その快挙は、試合が行われた地名から〈ジョホールバルの歓喜〉と名付けられ、伝説になっている。
あれから18年──。日本中を熱狂の渦に巻き込んだ野人・岡野はいま、日本一人口の少ない山陰地方の鳥取県に住む。現役最後の所属チーム、J3リーグ「ガイナーレ鳥取」のGM(ゼネラルマネジャー)として、3年前よりスポンサー集めの営業活動やチームのPRで東奔西走の日々を送っているのだ。
「GMといってもカッコイイもんじゃありませんよ。ウチは大企業のスポンサーがついているわけではなく、フロントを含めたスタッフも少人数で運営しているので、とにかく皆で動き回るしかない。特に僕はチームの広告塔なので、パソコンの前に座っていてもチームにかける情熱は何も伝わらないんです」
と岡野はいう。一時は債務超過に陥るほど経営難に陥ったガイナーレだが、いまでは地元企業を中心に全国130社以上の支援を獲得するまでになった。岡野のスポンサー回りは県をまたいで1日4社の過密スケジュールも珍しくない。
「移動のクルマを途中で乗り捨てて電車に飛び乗ったり、満員電車のトイレの前で駅弁をかきこんだり……。夜は夜で地元企業の社長さんとお酒を飲んで、気が付けば日付が変わっていることもしょっちゅうあります。
正直、休みらしい休みは取れていませんが、選手時代には決して出会わなかったような人たちと交流できますし、クラブ経営に関わるビジネスの現場では勉強することもたくさんあるので、毎日充実してます」
取材当日は地元の鳥取県赤十字血液センターへ年末の挨拶回り。若者の献血離れが顕著になる中、岡野はガイナーレ鳥取のPRも兼ね、献血の大切さを広く訴えてきたという。今年4月には同センターの新人研修で特別講演も買って出た。
「岡野GMのおかげもあり、鳥取は人口も少ないのに高い献血率を上げています」と感謝する担当者に、「これからも僕にできる事があれば何でも言ってください!」と威勢よく応える岡野。まさに〈ガイナーレ魂を表現し、地域の人々と感動を共有する〉という地域密着を柱とするチーム理念の真髄を見た。