人気マンガ『中国嫁日記』作者の井上純一氏は、ひと回り以上年下の中国人妻・月(ゆえ)さんと夫婦仲良く順風満帆に暮らしているはずだった。ところが2015年秋、フィギュア部門をまかせていたビジネスパートナーによるトラブルが発覚、多額の法人税滞納、未払い、使途不明金のため井上氏は金策に追われた。その後、フィギュア部門も井上氏が取り仕切り、いくつか新商品も発売された。事業再建はうまくいっているように見えたのだが、中国を引き払い、来年にはフィギュア事業をたたむという。何が起きているのか、井上氏にきいた。
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──今回、取材申込をしたときメールアドレスが不達になって驚きました。ひょっとして会社が大変なことになってしまったのでしょうか?
井上純一(以下、井上):会社は大丈夫なんですが、ドメイン所有のお金を払っていなかったため使えなくなったんです。再取得しようとしたら、すでにドメインが外国のゲーム会社に買われていたので使えなくなり、メールアドレスも消えました。これも、元ビジネスパートナーだったK水が残していった問題のひとつです。
──昨年1月にお話をうかがったときは、法人税が滞納金ふくめて約1500万円になっていて、会社の預金がほとんどなくなり、自転車操業で日々の生活費はブログのアフィリエイト収入でまかなっていたという話でした。その後、法人税は納められたのでしょうか?
井上:延滞金のぶんはまだですが、元金は払い終えました。これでやっと、税金に利子がつかない生活になりました。あの当時と比べると、生活はずっと楽になっています。
──会社の業績は上向いているといえるのでしょうか?
井上:失敗はしなかったことが、会社としては大きかったですね。会社にお金がないとわかって、借金や税金の滞納がわかってから手がけたフィギュアは、どれもこれも売上がすごくよい成績ではなかったけれど、逆にいえば悪くもなかった。そのなかで、もっとも売れ行きがよかったのは艦隊これくしょんの「那珂ちゃん」フィギュアでしたが、それも爆発的にうまくいったわけではありませんでした。
──業績好調とは言い難いのでしょうか?
井上:フィギュア業界は、いまどこもとても厳しい。その理由は何より、全体的に完成フィギュアという商品が売れなくなってきていることにあります。正直、うちのような小さいメーカーだと、もう、やっていく理由はありません。いま進行している企画が終わったら、もうフィギュア製造販売はやめます。僕は社員をかかえず、一人きりで描いているという事情もありますが、漫画のほうが儲かります。一年前には想像もしていなかった事態です。
──2014年から拠点にしていた広東省深センを引き上げ、日本に戻ってきたのはフィギュア部門をたたむことが理由なのでしょうか?
井上:いちばんの原因は家賃が急激に上がったことですが、仕事の都合もあります。
──とはいえ、井上さんが今年5月に予約販売した艦これの「那珂ちゃん」フィギュアは人気キャラクターです。予約好調に見えましたが、それでも厳しいのでしょうか?
井上: 正直なところ、那珂ちゃんはもっと売れると思っていたので、反応の鈍さに驚きました。それでも同業者からは「その価格でこれだけ売れれば大ヒットだ」といわれました。確かに一体1万7千円は高額な部類なのでしょうが、今やフィギュアは一体1万円超が当たり前です。でも、最近のフィギュアの売れ方をみていると、1万円を超えた途端に売れなくなります。だから、那珂ちゃんを買ってくれたお客さんは、本当に大決心してくれたんだと思います。