年末年始はじっくりと本を読む良いチャンスだが、本読みの達人が選ぶ書は何か。雑文家の平山周吉氏は、天皇の譲位を読み解く書として『明仁天皇と戦後日本』(河西秀哉・著/歴史新書y/950円+税)を推す。平山氏が同書を解説する。
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二〇一七年は平成二十九年である。新しい年に西暦よりも年号を意識する日本人はもはや少数派だ。年号を意識することがもっとも強いのは、おそらく天皇皇后両陛下であろう。「生前退位」を望む平成三十年は刻一刻と近づいている。
八月の「ビデオメッセージ」は「平成の玉音放送」といわれ、世論調査では圧倒的支持を得た。共感の後に、冷静になってみるとどうか。憲法及び皇室典範との兼ね合い、「公的行為」とは何か、天皇の御位と能力との相関関係、皇室の権威の巨大化など、軽々しく判断するのを躊躇させる幾多の難問が横たわっている。近代日本の制度設計全体に関わってくるからだ。「熟議」という言葉が安保法制論議の時、ヤケに口にされたが、熟議はむしろこのテーマにふさわしい。日本という国家が、溶けていくかもしれないからだ。
神戸女学院大准教授の河西秀哉『明仁天皇と戦後日本』は、NHKが変則的な大スクープをした時に、新刊で店頭に並んでいた。予見的な本であった。今上天皇(著者は「明仁天皇」と表記する)の個人史を辿りながら、国民がその時々にどう皇室を受けとめたかに焦点を合わせていく。
独立直後の昭和二十七年、立太子の礼は最大級の扱いで報道された。影が薄くなった「孤獨の人」の時代、ミッチー・ブーム、沖縄での毅然とした姿、皇后バッシングなど、山あり谷ありだった。
著者の河西が注目したのは、天皇の実像はそれほど変わらなくても、マスメディアが提供するイメージによって、国民の感じ方に差が出てくることだった。民主主義が深化しても、メディアの柔らかな自主規制は強まっていないか、という問題提起と私は受け取った。昭和末のような「自粛」の空気を繰り返すことは、今上天皇にとっても避けたい事態であろう。
本書に続き、退位に関連する書は次々と出るらしい。最新刊『文藝春秋SPECIAL 皇室と日本人の運命』に載った片山杜秀、山口敬之、伊東祐吏の論は傾聴すべき「異見」だった。今こそ百家争鳴を。
撮影■日本雑誌協会代表取材
※週刊ポスト2017年1月1・6日号