新聞・雑誌がこぞって書評特集を組む時期だが、世の中には意外な読書家たちがいる。平凡とは真逆の人生を歩むアウトローの人々は刑務所の中で、ある人は趣味の延長で、人生を変えるような本に出会っていた。元山口組顧問弁護士の山之内幸夫氏が感銘を受けた「愛読書」はいったいどんな本なのか。
約40年にわたり山口組の顧問弁護士を務め、“山口組の守護神”と呼ばれた山之内氏が何度も読み返す愛読書は、伝説の組長が自らの武勇伝を記した『完本 山口組三代目 田岡一雄自伝』(徳間書店/1400円・以下価格は税抜き)だ。初めて山口組組員の刑事弁護を担当する際、山口組という組織を知るために手に取り、田岡組長の手腕に感動を覚えた。だが最近は、違う感想を抱くという。
「今読むとヤクザ社会の“時代は変わった”と痛感します。田岡さんは組員に『正業を持て』と勧めるが、現状はヤクザが正業を持つのは不可能です。また田岡さんは暴力を武器に勢力を拡大しましたが、今は組をあげての抗争は御法度になった。
何かあれば、組のトップクラスが共犯とされるので、暴力団同士の抗争をしたら組ぐるみで検挙される可能性がある。暴対法や暴排条例でヤクザは追い詰められており、田岡さんのように力で制圧し、力で勝ち取る時代が終わったことを逆に教えられる一冊です」(山之内氏)
仕事以外でも手に取るのはヤクザ関連の書籍が多い。山口組分裂に関する書籍はこの1年で多数出版されたが、『山口組 分裂抗争の全内幕』(西岡研介、鈴木智彦、伊藤博敏ほか著/宝島SUGOI文庫/700円)はダントツの面白さだったと言う。
「遠慮なくヤクザに厳しい視点で書かれています。一般の方にはわかりづらい面もあるけど、何回も読み返せば山口組分裂の“本当の理由”が見えてくるはず。実はヤクザには読書家が多く、とりわけ歴史物がよく読まれる。現在の六代目・司忍組長も読書家で文章を書くことも好き。影響力が大きいので、そう簡単に表には出せませんけどね」(山之内氏)
※週刊ポスト2017年1月1・6日号