トランプ氏の勝利によって、これまでの秩序は崩れ、想像をはるかに超える事態が起ころうとしている。インテリジェンスに精通する佐藤優氏と手嶋龍一氏の2人が激流を読み解く。
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手嶋 12月26、27日にハワイの真珠湾でオバマ大統領との最後の日米首脳会談が行われました。実は、この会談の影の主役こそ、トランプ次期大統領です。
昨年3月、当時共和党の有力候補の1人だったトランプ氏は、日韓の核保有を容認する発言をしました。5月のオバマ大統領の広島訪問には、この核武装容認発言を牽制する意味があった。広島と真珠湾の会談は一対と見るべきです。
佐藤:おっしゃる通りです。問題は中国の動きです。このタイミングでの首脳会談の意味を中国はどう受け止めるか。手嶋さんはどう思いますか?
手嶋:トランプ氏は大統領選勝利直後の安倍首相との会談に先立ち、習近平国家主席と電話会談を行っています。中国側は、太平洋を日付変更線で2つに分けて、西側は中国の、東側はアメリカの勢力下に置く認識を示しました。
とはいえ、トランプ氏も中国が南シナ海を支配下に置くことは認めていない。果たして真珠湾会談が中国にどんなシグナルとして届いたか。今後の東アジア情勢を考える上で重要なファクターになりそうです。
佐藤:中国はまた歴史認識キャンペーンを展開してくるはずです。第二次世界大戦で、中国はアメリカとともに日本と戦った。米中は同じ陣営で、ナチス・ドイツの同盟国だった日本はファッショの流れを汲んでいたと喧伝し、日米の分断をはかるでしょう。
手嶋:安倍首相は日米同盟をさらに深化させると言っていますが、忘れてはならないのが、2013年に安倍首相が行った靖国参拝です。もっとも強い反対声明を出したのは、中国でも韓国でもなく、オバマ政権でした。その後、EU、ロシア、中国、韓国、北朝鮮の反対声明が続いた。これは第二次世界大戦時の連合国の構図と一致します。中国にとって、これ以上は望めない対日包囲網です。
【PROFILE】さとう・まさる/1960年生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。02年5月に逮捕、09年6月に有罪が確定し、同年7月に失職。トランプ大統領誕生の影響や彼が取り組む課題に言及した『世界観』(小学館新書)など著書多数。
【PROFILE】てしま・りゅういち/1949年生まれ。NHKワシントン支局長として2001年の同時多発テロに遭遇。独立後に発表した『ウルトラ・ダラー』(新潮社刊)はベストセラーに。最新刊に『汝の名はスパイ、裏切り者、あるいは詐欺師』(マガジンハウス刊)がある。
※SAPIO2017年2月号