建物の前にたむろするダークスーツに身を固めた男たち。その中の一人が窓ガラスにバールを何度も叩きつけ、白いヒビがどんどん拡がっていく。やがて建物の入り口から一人の男が路上に引きずり出され、ダークスーツの集団は執拗に足蹴を加え始めた。トドメは体格の良い一人が馬乗りになって首絞め。ぐったりと横たわる男はどうやら意識を失ったようだ──。
このバイオレンス映画さながらの映像は、昨年12月16日に神戸山口組の中核団体・山健組の本部(神戸市)の防犯カメラに記録され、インターネット上に出回ったものである。
山口組は2015年8月に六代目山口組と神戸山口組に分裂して以来、各地で抗争を繰り広げてきた。しかし冒頭の場面は両団体による争いではない。
なんとダークスーツ集団の正体は家宅捜索に来た大阪府警。リンチを受けていたのが山健組組員なのである。山健組関係者が当日の経緯を振り返る。
「大阪府警捜査4課の“マル暴刑事”たちはあの日、突然乗り込んできた。ほんの数分、対応が遅れてドアを開けなかっただけで、防弾ガラスをバールで叩き割ろうとするわ、殴る蹴るの暴行を加えるわ……。若い衆が何人もやられて、うち一人は肋骨を折られて入院している」
ちょうど1年ほど前の2015年12月、大阪市内で2つの山口組の傘下組員同士による乱闘事件が発生し、これまでに双方合わせて12人が逮捕された。その捜査の一環として、山健組本部への家宅捜索が行なわれたという。前出の関係者が噴る。
「警察はやりすぎだ。医者の診断書もあるし、証拠の映像も残っている。弁護士とも相談して、特別公務員暴行陵虐罪(※)で刑事告訴する予定だ」(同前)
【※/特別公務員(警察官・裁判官・検察官)が、被告人や被疑者に対して「暴行」「陵辱」「加虐」の行為をした場合、7年以下の懲役または禁錮刑に処せられる】
暴力団が警察を刑事告訴するというのだ。この異例の対応の背景を、暴力団事情に詳しいジャーナリストの伊藤博敏氏はこう見る。
「分裂抗争以降、警察は2つの山口組を弱体化させるために取り締まりを強化している。ヤクザ側もこれまでとは違う対応に迫られているのではないか」
暴力行使もいとわない警察と、法に訴えるヤクザ。何とも妙な構図である。
※週刊ポスト2017年1月13・20日号