江戸時代中期の天才絵師・伊藤若冲の代表作として名高い『動植綵絵』(宮内庁三の丸尚蔵館蔵)。全30幅の中でも、鶏は若冲が自宅の庭で放し飼いにして繰り返し描いた象徴的なモチーフだ。酉年を寿(ことほ)ぐ色鮮やかな鶏図の魅力を、明治学院大学教授で日本美術応援団長の山下裕二氏が解説する。
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2016年は空前の若冲ブームでした。春に東京都美術館で開催された生誕300年記念の若冲展の来場者は、なんと44万6000人! 最長320分待ちとなったほどの熱狂ぶりでした。
そんな若冲の代表的モチーフが鶏です。若冲が40代で挑んだ畢生の大作『動植綵絵』でも、30幅のうち8幅で鶏を描いています。2017年は「酉年」。若冲の鶏をあしらった年賀状が、全国で一体何百万枚流通したのでしょうか。
新年にあやかり、『動植綵絵』で最もおめでたい作品はと考えるならば、旭日と鶏が描かれた『老松白鶏図』でしょう。朝日と鶏という組み合わせにも意味があります。鶏は朝日が昇ると同時にいち早く啼く。つまり、“誰よりも先に悟りを開く存在”という禅的な意味が込められている。若冲自身も絵に関して先覚者でありたいという思いが強かったと感じられます。
自宅でたくさんの鶏を飼い、何年もその生態をじっと見つめて筆を取った若冲は、凝視する対象として鶏を選んで、命がけで完璧な絵を描き上げました。僕は『動植綵絵』を世界で最もすばらしい絵だと思っています。酉年にあらためて、鶏たちが描かれた若冲作品をじっくり味わってみましょう。
■作品はすべて宮内庁三の丸尚蔵館蔵、構成/渡部美也
※週刊ポスト2017年1月13・20日号