元日、早朝5時30分。凍てつくような寒さのなか、新年最初の宮中行事が始まる。御所から約400m離れた宮中三殿の西側にある神嘉殿。その前庭にお出ましになった天皇陛下は、伊勢神宮の方角を拝んだ後、東南西北の順に四方の神々に向かって拝む。毎年変わることなく、この「四方拝」で天皇陛下の新しい年は始まる。皇室ジャーナリストの久能靖さんが解説する。
「四方拝は平安時代中期に始まったと考えられる宮中祭祀で、五穀豊穣や国民国家の安寧を祈願されます。祭祀前に身を清めるため、陛下は元日の午前3時すぎに起床します。その後、元日の午前中から始まる『新年祝賀の儀』では、皇族や内閣総理大臣、各国の駐在大使公使夫妻などと挨拶を交わします。数時間の間、両陛下は立ちっぱなしで、2013年は元日だけでお祝いを受ける人数は686名に及びました。それ以外にも正月は分刻みのスケジュールでさまざまな儀式が行われるため、陛下のご負担は相当なものです」
1月2日には恒例の一般参賀が行われ、例年8万人以上が参加する。その10日前の2016年12月23日、83才となった陛下の誕生日に皇居で行われた一般参賀には、平成に入ってから最多となる3万8000人が参加した。旅行会社の参賀ツアーが次々と完売する大盛況ぶりだった。
一般参賀が例年を大きく上回る熱気に包まれたことには理由がある。昨年8月8日、ビデオメッセージを通じて陛下自らが広く国民に向けて譲位の意向を強くにじませた「お言葉」を述べられたため、「譲位する前に陛下にお会いしたい」との思いで参加者が殺到したのだ。
陛下の強い思いは、「平成の玉音放送」と称されるほどの反響を呼んだ。これを受けて政府は「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」を立ち上げ、昨年11月に皇室制度や歴史、憲法などの専門家16人から意見聴取した。
昨年12月14日、有識者会議は、天皇の譲位を恒久的な制度とする皇室典範の改正ではなく、現在の天皇陛下に限って譲位を可能にする特例法の整備を政府に求める方針を固めた。
「譲位は一代限り」という見解を陛下はどう見るのか。8月以来の肉声に注目が集まった昨年12月23日の誕生日会見では、こう語るのみだった。
「8月には、天皇としての自らの歩みを振り返り、この先の在り方、務めについて、ここ数年考えてきたことを内閣とも相談しながら表明しました。多くの人々が耳を傾け、各々の立場で親身に考えてくれていることに、深く感謝しています」
撮影/雑誌協会代表取材
※女性セブン2017年1月19日号