青山学院大学の3連覇で幕を閉じた2017年の箱根駅伝。数々の見どころがあるが、なかでも特に“美しい”のが、往路3区から4区にかけての風光明媚な景色。選手たちは富士山を正面に、相模湾と並行する国道を走り、箱根を目指す。
その4区、平塚中継所に近い場所にある『やまいち旅館』には、毎年、往路2~4区、復路8、9区の5~6校の選手たちが宿泊する。今年は、青山学院大、明治大、中央学院大、国士舘大、大東文化大、関東学生連合チームを出迎えた。女将の小泉孝子さん(52才)は、30年前からずっと箱根駅伝を見守ってきた。
「これまで山を走って倒れた選手もいて、回復後にうちに来たけれども、夜になって体調が悪化して、慌てて救急車を呼んだこともありました。2区の選手で、素晴らしい走りでどんどん抜いていたのが、急に失速して、襷(たすき)をつなぐことができなかったこともあった。あの時はもう…つらかったね…。テレビでずっと応援していたけれど、走り終えてここに帰ってくるのがわかっているからね。戻ってきた時は、周りに慰められながら、泣きじゃくっていました。あの時は私もかける言葉が見つからなかった…」
1月2日、3日。東京・大手町から箱根・芦ノ湖間の往復217.1kmを10人の選手が襷をつないだ。彼らはこの日を迎えるために、365日24時間、息をつく間もなく、厳しい生活を送っている。
箱根駅伝に名を連ねる多くの大学に完備されているのは選手寮。学生たちは入学式前の3月から入寮し、徹底管理された共同生活を送る。
日々の練習もハードだ。朝5時~5時半には起床し、すぐに朝練が始まる。1時間半ほど練習したあとは、朝食をとって普通の学生と同じように大学に向かうが、例えば青学大では寮から走って通学する。授業が終わって夕食を終えると、再び練習。ひと月で800~1000kmを走り込む。
食事もまた栄養士に徹底的に管理されている。それは、体をしぼり、体重が軽いほど長距離を走るのに有利といわれているから。選手たちは当日を最高のコンディションで迎えるため、チョコレートやケーキといったお菓子もほとんど口にしない。