昨年8月8日、ビデオメッセージを通じて、天皇陛下自らが「譲位」の意向を強くにじませた「お言葉」を述べられた。新聞各紙が行った世論調査では、陛下の譲位に賛成・容認が「91%」(朝日)、「84%」(毎日)、「81%」(読売)に達した。圧倒的な“支持率”が示すように、陛下の「お言葉」は多くの日本人の心を打った。
それは、なぜなのだろうか。有識者会議のヒアリングにも答えた京都産業大学名誉教授の所功さんが指摘する。
「世論は陛下が譲位を決心されれば認めるべきだという人が大半で、譲位を認めてはいけないという人はきわめて少数です。それは、陛下がこの30年近く象徴の務めを本当によくやってこられたことを、国民はしっかり受けとめていたということです。多くの国民は陛下のお言葉を素直に理解して、共感しました。だから、陛下と次の天皇のご意向を実現するためにも制度を変えるべきだという意見が多いのです」
陛下のやってこられたこと──その「行為」は3つに大別できる。国会の指名に基づく内閣総理大臣、最高裁判所長官の任命などは憲法第4条にある「国事に関する行為」にあたり、新年の一般参賀や園遊会など式典や行事への出席、国内外への訪問などは「公的行為」にあたる。元日の四方拝や新嘗祭など年間約20におよぶ宮中祭祀は「私的行為」である。
昨年8月の「お言葉」にもあるように、陛下が何よりも「天皇の務め」と考えてきたのは、国民の安寧と幸せを祈るとともに、人々の傍らに立ち、その声に耳を傾け、思いに寄り添うことだ。
陛下が何を大切とするかを示すエピソードがある。昨年3月、陛下は学習院初等科の同窓会に参加された。集まったのは20名ほどで、昔話や健康に関する話題で話が弾んだ。
その席上、1人の同級生が、「陛下は平和を大事になさっていますが、著名な平和主義者たちとはご意見が合うのでしょうね」と陛下に尋ねた。すると陛下は「違うよ」と答えてから、こう続けた。
「イデオロギーは関係ない。その時々で国民が幸せであれば充分なんだ」