国内

石田衣良氏 「東西の壁が復活、世界は新たな冷戦の時代に」

作家の石田衣良氏

 2017年、世界はどう動くのか。そのなかで私たちはどう生きるべきか。直木賞作家・石田衣良氏にインタビューした。(取材・文=フリーライター・神田憲行)

 * * *
 去年の世界と日本のニュースを比べると、日本は静かで平和な1年だったなと思いますね。

 強権的な指導者が目立ち、みんなの怒りが表面に出てきた年でした。ウェブスターが去年ネットでもっとも検索された言葉は「ファシズム」だったと発表しました。改めて言葉の意味を確かめたい、「ポピュリズム」との対比で調べたいらしいです。この雰囲気はヤバイと感じている人がそれだけ多いということなんでしょうね。

 経済成長という全てを癒やしてくれる魔法の薬がこの10年なかった。だからみんな強権的な指導者に流れ込んだ。トランプさんとかフィリピンのドゥテルテ大統領に比べれば、ああだこうだ言われながらも、安倍さんには点数上げられますよね。わがニッポンの安倍さんはそういう人たちに比べればまだ程度は良かったもの。フィリピンの大統領なんかオバマ大統領に「売春婦の息子」っていうんですよ、それ国際外交の言葉じゃないですよね(笑)。トランプさんも「メキシコ人は強姦魔」とか、飲み屋での喧嘩じゃないんだから(笑)。

 世界がひとつにまとまるという、ベルリンの壁崩壊から始まってきた流れが、世界が離れていく方向に変わりました。ただそうはいっても結局は世界はみんな平等になって民主主義になってくいと思うので、今回のは一時的な逆流です。前回のが30年続いたとしたら、今度のは15年でまたグローバリズムにゆっくり戻ってくると思う。歴史の矢印をみると、世界が豊かで平等で自由になるあがらえない変化があるからです。

「西側」「東側」というような対立の壁が復活したんじゃないでしょうかね。また新たな冷戦の時代に、あるいは第一次世界大戦前に戻る感じが僕はします。ロシアが中東に手を出して、アジアに巨大な国が生まれる。100年前は日本なのが今はそれが中国で、日本は当時の清みたいな役割です。いまの揺り戻しは旧世代の秩序を新興国が挑戦するというパターンで第一次世界大戦前のような過去とも似ています。以前はドイツ、そのあと三国同盟、今は中国とロシア。大きな戦争さえなければ、ということですが。

 アメリカは実験国家で怖いですね。トランプさんが二期8年も大統領がやれるとは思えないですが、4年後の民主党大統領で手のひら返しできるのですかね。グローバリズムの反動でいま世界は地域主義に向かっています。アジアは中国の権益を認めよう、ヨーロッパそれぞれというのがトランプさんの立ち位置で、それが中国とロシアには嬉しい。

 ロシアはアメリカと仲良くできるなら日本とどうでもいいというので、北方領土は全く返還するつもりがない。安倍さんは甘かった。ロシアはたくさんの血を流して領土を奪い取るものなんで、絶対に返すはずが無い。経済協力は止めた方がいいと思います。

 正直中国は読めなさすぎる。景気が落ちたじゃないですか。経済成長しないと猛烈に不満がたまるので、そのときは今の北朝鮮みたいにアメリカや日本が悪いと言い出すんじゃないのかと思います。

 いまの中東情勢も先行きが不明です。いまの中東は日本の戦国時代みたいなもので、そこに外国勢力が割って入って織田信長を応援しましょうと言っているようなものですよ。それは無茶でしょう。とても残念ですが安定にはまだたくさんの時間と血が必要な気がします。

関連キーワード

関連記事

トピックス

第2次石破内閣でデジタル兼内閣府政務官に就任した岸信千世政務官(時事通信フォト)
《入籍して激怒された》最強の世襲議員・岸信千世氏が「年上のバリキャリ美人妻」と極秘婚で地元後援会が「報告ない」と絶句
NEWSポストセブン
モテ男だった火野正平さん(時事通信フォト)
【火野正平さん逝去】4年前「不倫の作法」を尋ねた記者に「それ俺に聞くの!?」 その場にいた娘たちは爆笑した
週刊ポスト
「●」について語った渡邊渚アナ
【大好評エッセイ連載第2回】元フジテレビ渡邊渚アナが明かす「恋も宇宙も一緒だな~と思ったりした出来事」
NEWSポストセブン
多くのドラマや映画で活躍する俳優の菅田将暉
菅田将暉の七光りやコネではない!「けんと」「新樹」弟2人が快進撃を見せる必然
NEWSポストセブン
三笠宮妃百合子さま(時事通信フォト)
百合子さま逝去で“三笠宮家当主”をめぐる議論再燃か 喪主を務める彬子さまと母・信子さまと間には深い溝
女性セブン
氷川きよしが紅白に出場するのは24回目(産経新聞社)
「胸中の先生と常に一緒なのです」氷川きよしが初めて告白した“幼少期のいじめ体験”と“池田大作氏一周忌への思い”
女性セブン
阪神西宮駅前の演説もすさまじい人だかりだった(11月4日)
「立花さんのYouTubeでテレビのウソがわかった」「メディアは一切信用しない」兵庫県知事選、斎藤元彦氏の応援団に“1か月密着取材” 見えてきた勝利の背景
週刊ポスト
10月には10年ぶりとなるオリジナルアルバム『Precious Days』をリリースした竹内まりや
《結婚42周年》竹内まりや、夫・山下達郎とのあまりにも深い絆 「結婚は今世で12回目」夫婦の結びつきは“魂レベル”
女性セブン
騒動の発端となっているイギリス人女性(SNSより)
「父親と息子の両方と…」「タダで行為できます」で世界を騒がすイギリス人女性(25)の生い立ち 過激配信をサポートする元夫の存在
NEWSポストセブン
九州場所
九州場所「溜席の着物美人」の次は「浴衣地ワンピース女性」が続々 「四股名の入った服は応援タオル代わりになる」と桟敷で他にも2人が着用していた
NEWSポストセブン
「SUNTORYドリンクスマイルBAR」
《忘年会シーズンにこそ適正飲酒を》サントリーの新たな取り組み 自分に合った “飲み“の楽しさの発見につながる「ドリンク スマイル」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 小沢一郎が吠えた「最後の政権交代を実現する」ほか
「週刊ポスト」本日発売! 小沢一郎が吠えた「最後の政権交代を実現する」ほか
NEWSポストセブン