2014年10月に最も進んだステージのすい臓がんが発見され、余命数か月であることを自覚している医師・僧侶の田中雅博氏による『週刊ポスト』での連載 「いのちの苦しみが消える古典のことば」から、舎利佛の「一切の煩悩が永く尽きる、是を涅槃という」という言葉について田中氏が解説する。
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花火や爆竹ではなく、静かに反省して新年を迎える。日本のお寺では大晦日に除夜の鐘を撞きます。鐘を撞いて、煩悩を撞き尽くすのです。「一切の煩悩が永く尽きる、是を涅槃という」は、雑阿含経(お釈迦様の説法を伝える仏教の古典)第十八巻の舎利弗諸説経にある言葉です。
舎利弗は、お釈迦様の弟子で、シャーリという名の女性の子という意味の名前です。シャーリは鳥の種類で日本では九官鳥といいます。九官という名前の人が、自分の名前を呼ばせて、日本にこの鳥を紹介したのだそうです。
舎利弗は、お釈迦様よりも年上で、他の多くの出家修行者と同様に不死を求めて修行していました。お釈迦様の最初の説法を聞いた5人の修行者が、順次理解して仏弟子となりました。
その5番目の弟子アッサジに会った舎利弗は、お釈迦様の説法についてアッサジに質問しました。そしてお釈迦様が「不死」に目覚めたと確信し、友人の目蓮と共に、不可知論者(超自然的な問題に対して判断を中止した)サンジャヤの弟子250人を引き連れて仏弟子となりました。
このとき舎利弗が聞いたアッサジの言葉は「物事は原因から生じ、その原因を、そしてその滅尽をも、私の師は説く」という内容でした。お釈迦様は苦の原因と滅尽を説かれたのです。