投資信託市場ではこのところリスクコントロール型ファンドへの資金流入が続いているという。どんな特長があるのか、楽天証券経済研究所ファンドアナリストの篠田尚子氏が解説する。
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投資信託市場で堅調に残高を積み上げているファンドもある。それは、「リスクコントロール型」と呼ばれるものだ。価格変動リスクを低減させるために、市場動向に応じて投資資産の組入比率を機動的に変更するファンドのことで、簡単にいうと、運用資産を「減らさない」ことに主眼を置いている。
販売当初は苦戦が続いたがこのところ再び注目されているのは、運用が始まって約3年以上経ち、トラックレコード(運用実績)が整ってきたと同時に、その間、ファンドが目指すところの、安定的な収益を継続して生み出してきたからだ。加えて、アベノミクスがひと段落し、株式市場が伸び悩んでいることや、マイナス金利が常態化しつつある金融市場において、リスクコントロール型が生む収益の価値が相対的に上がっている、という背景もあろう。
実は、リスクコントロール型といっても、運用内容はファンドごとに大きな違いがある。
例えば、アセットマネジメントOneの『投資のソムリエ』は、国内外の株式や債券など8つの資産に分散投資し、毎日、それぞれの相場の動向を判定する。下落の危険性が高まったと判定したときは、組み入れている資産をリスクの低い安定資産や現金などに機動的に入れ替え、ファンドの基準価額の下落の抑制を図る。
こうした機動的な入れ替えは、『投資のソムリエ』の場合、クオンツ運用によって行なわれている。クオンツ運用には明確な定義はないが、運用の世界では「数量的な分析に基づく投資手法」のことを指し、分析をしたコンピューターが売買を指示するケースがほとんどだ。
また、ファンドの価格変動リスクを年率4%程度に抑え、安定的な基準価額の上昇を目指すことを明記している。この価格変動リスクの数値を明確にする点が、リスクコントロール型の特徴の1つといえる。
また、ピクテの『クアトロ』は、さまざまな資産に分散投資をし、機動的な資産配分をするところまでは他のリスクコントロール型と同じだが、投資先の資産に「オルタナティブ」が含まれている点がポイントだ。
オルタナティブとは、株式や債券といった伝統的な資産への投資とは異なる、代替的な投資手法のこと。割安と判断される資産を買い建て、割高と判断される資産を売り建てる『ロング・ショート戦略』といったものがあり、ヘッジファンドなどでも使われている。ピクテは、長年にわたる年金運用などを通じて、オルタナティブ投資のノウハウを蓄積しており、それが活かされているといえるだろう。
このように、リスクコントロール型ファンドといっても、運用会社によってリスクを低減させる手法には違いがある。
リスクコントロール型は、一見、分散投資をする点においてバランス型ファンドと運用内容が似ている印象がある。しかし、一般的なバランス型ファンドは、投資配分の比率の見直しは、年1回あるいは2回程度となっているケースが多い。そのため、昨今の目まぐるしく変動する相場環境においては、分散投資の効果が発揮されにくくなっている面がある。リスクコントロール型は、機動的な配分比率の変更によって、そうしたマイナス面をカバーしている。
バランス型ファンドを購入する人には、リスクを抑えて、安定的な収益を得たいというニーズが強い。今後、そうしたニーズに応えるファンドとして、リスクコントロール型がバランス型に取って代わる、有力な選択肢となっていくのではないだろうか。