支持率は高く、株価も上がり調子。まさに“この世の春”の安倍首相は解散風に右往左往する永田町と大メディアの動きを面白がっているようにしか見えない。
1月4日の年頭会見で「解散の二文字を全く考えたことはない」と言ったかと思うと、翌5日には自民党本部の仕事始めで「酉年は大きな変化がある年。“常在戦場”の気持ちでともに身を引き締めていきたい」そうハッパをかけ、夕方の時事通信社主催の新年互礼会では一転、こんな挨拶をした。
「酉年であれば必ず総選挙というわけではない。今年は全く考えていないということははっきりと申し上げておきたい」
衆院の解散権は総理大臣だけに与えられた強権で、いつ、解散を打つかについて「首相は嘘をついてもいい」というのが昔からの政界の不文律だ。だから“やる”と言おうが“やらない”と言おうが、眉に唾付けて聞いておいた方がいい。
ところが、この発言をめぐって報道は迷走し、憶測が乱れ飛んだ。
その夜の正副官房長官会議で安倍首相が「今年はない」発言を訂正し、出席者の1人が記者団に「『今月』と『今年』を間違えたようだ」と説明すると、翌日の新聞各紙は〈首相に近い人物が解散がない時期を「1月のみ」に限定したことで、かえって年内解散の臆測が広がりそうだ〉(日経)などと書きたてた。
風向きは、また変わる。6日に官邸を訪れた荒井広幸・元参院議員らに安倍首相は、「今月ないと言えば、かえって来月はあるのかということになる。だから、今年はないと言った。解散は全く考えていない」と間違いではなかったと説明。8日の『日曜討論』(NHK)で「予算案の早期成立に全力を尽くす。その間、解散の『か』の字もおそらく頭には浮かばないだろう」と発言すると、各紙は〈解散 秋以降を示唆〉と報じた。
それでも、有力紙の幹部は「安倍さんの死んだふり解散だ。自民党執行部筋から1月20日の通常国会冒頭解散の情報が入った」と選挙報道の準備を進め、自民党参院議員もこう語る。
「仕事始めからの総理の一連の発言で、“こりゃ、解散はあるな”と思った。おちゃらかしているのが怪しい。あれだけ外交好きの総理が2月に外遊日程を入れていないし、慰安婦合意で韓国から大使を一時帰国させるなど強硬姿勢を取っているのも選挙をにらんだ保守層へのアピール。ズバリ投票日は2月19日の大安だ」
だが、ある安倍側近は笑いながら話す。
「年始の総理は確信犯的にどうとでも取れる言い方を繰り返している。議員も新聞記者も口先一つで右往左往する様子を楽しんでいるとしか思えない」
解散の「か」の字を言っただけで、これだけ周囲が踊ってくれるのだから、安倍首相は呵々大笑に違いない。
※週刊ポスト2017年1月27日号