韓国・釜山の日本総領事館前に新たな「慰安婦像」が設置された。2015年12月28日に慰安婦問題日韓合意が結ばれてから1年あまり。日本側は、首相の声明として元慰安婦らに対し、「心からおわびと反省の気持ち」を表明したうえで、韓国政府が設立する元慰安婦の支援財団に10億円を拠出し、すでに約束は履行済みである。
一方の韓国側は、ソウル市の在韓日本大使館前に設置された慰安婦像について、「適切に解決されるよう努力する」としたが、いまだに撤去されていない。それどころか、像はどんどん増えているのだ。
そもそも韓国政府はこの間、「慰安婦の少女像は民間が設置したものであり、政府があれこれと言える問題でない」という理屈で対応を先延ばししてきた。釜山総領事館前の慰安婦像も、メディアでは「大学生の団体や市民団体が中心になった」と報じられている。しかし、背後にいるのはただの民間組織ではない。元朝日新聞ソウル特派員でジャーナリストの前川惠司氏は言う。
「設置運動の実際の主体は、慰安婦問題で反日運動を展開してきた挺対協(韓国挺身隊問題対策協議会)です。別働隊として、学生や市民のグループを使っているだけ。また、ほとんどの慰安婦像は制作者が同じで、デザインも同じです」
像の制作者とは、彫刻家のキム・ウンソン、キム・ソギョン夫妻で、韓国では英雄視される存在だ。夫のキム・ウンソン氏は韓国のニュースサイト「オーマイニュース」(2016年11月7日付)にこう答えている。
〈2011年1月に、日本大使館の前を通り、水曜集会(慰安婦問題の抗議集会)を見て驚いたのです。『こんな集会を今までやっていたのか』と思った瞬間に、とても申し訳ない気持ちになりました。(中略)挺対協を訪ね、『私たちができることがありませんか。すまないという気持ちを減らしたいと思っています』と話したのです〉
それがきっかけで、挺対協の後押しで像を制作することになったという。韓国問題に詳しいジャーナリストの織田重明氏はこう言う。
「関係者に取材したところ、挺対協が基金をつくり、そこに集まった寄付金が制作費にあてられているとのこと。この夫婦が単独でやっているのではなく、挺対協と一緒に各地に設置しているのです」
本誌は韓国に住む夫妻を直撃したが、「どの雑誌であれ、日本のメディアの取材には応じられない」と言うだけだった。
慰安婦像の制作費用は1体300万円とされ、夫妻のもとには「もう少しリーズナブルな小さいサイズの慰安婦像を作ってほしい」という依頼が各地から殺到しているという。
「挺対協の集会などでは、おみやげ用の慰安婦像のミニチュアを販売しています」(前出・前川氏)
こうなると“商売”のニオイさえ漂ってくる。では、この挺対協なる組織はいったい何か。
挺対協は慰安婦問題の解決を名目に1990年に設立された団体で、慰安婦に対する日本国政府の真の謝罪と誠意ある対応を求め、ソウル市の在韓日本大使館前での「水曜集会」や国内外に慰安婦像を設置する運動を進めている。元慰安婦の意思を代弁する組織と主張しているが、元慰安婦を政治利用する反日団体に過ぎないとの批判が根強くある。
挺対協は今回の日韓合意についても、「法的責任を認めておらず、補償も不十分」という理由で、当初から反対の姿勢を明確にしていたが、朴大統領のスキャンダルで、「日韓合意は(朴槿恵氏の友人の)崔順実が大統領に指示したものだから無効」と主張している。
「崔順実の問題を慰安婦問題に結びつけて、反政府運動を展開している。その動きに完全に同調しているのが最大野党『共に民主党』の大統領候補者で、各紙の世論調査で支持率1位の座にいる文在寅氏です。釜山は文氏の地盤で、反朴政権のろうそくデモが終わったあと、その流れで3000人くらいを引き連れて総領事館に押しかけました」(前出・前川氏)
像の制作者、挺対協、次期大統領候補の三者がスクラムを組み、朴大統領が弾劾決議で権限停止されている間隙を突き、慰安婦問題を最大限に利用して政権を転覆・奪取し、日韓合意を覆そうとしているのだ。
※週刊ポスト2017年1月27日号