安倍政権との密接な関わりが指摘されている保守系民間団体「日本会議」の実情を描き、15万部超のベストセラーとなった『日本会議の研究』。その中に個人の名誉を貶める記述があるとして、東京地裁は1月6日、出版元の扶桑社に販売差し止めを命じた。
販売差し止めを申し立てた人物は、日本会議の源流ともいえる宗教団体「生長の家」の元幹部のA氏だ。A氏について、政治団体「一水会」元顧問で、生長の家出身の鈴木邦男氏はいう。
「日本会議は神社本庁などの宗教・思想団体が連合したもの。その実務を仕切っているのはA氏を中心とする、生長の家出身の数名です。A氏は弁がたつ、カリスマ的存在だった」
問題の記述は、A氏を“日本会議を影で操る人物”として紹介した6か所のうちの1か所。日本会議が発足する以前、生長の家の機関誌を100万部売ろうとする運動をA氏が主導したところ、学生らが借金してまで自腹で機関誌を購入していたという部分である。
〈自殺者も出たという。しかし、そんなことはA(原文実名で2文字)には馬耳東風であった。〉
という、わずか33文字の記述だ。A氏の代理人弁護士の内田智氏がいう。
「A氏本人への取材なしに書かれた『自殺者が出た』『馬耳東風』など事実と異なる記述を断固否定した。一部とはいえ、こちらの主張が認められた意義は大きい」
販売差し止めに詳しい弁護士の佃克彦氏の解説。
「33文字とはいえ、A氏が学生を自殺に追いやったともとれる記述。そのため裁判長は、該当部分が個人の名誉を損ね、損害賠償を行なっても補償しきれないと判断したのでしょう。とはいえ出版活動は『表現・報道の自由』、国民の『知る権利』を守るという点で、憲法で保障されており、差し止めは頻繁に認められるべきものではない。このような判断が下されることは極めて異例です」
著者の菅野完氏がいう。
「あくまでも関係者の証言に基づいて書いた記述。削除を求められたことは極めて遺憾です。そもそも該当する6か所のうち、5か所はこちらの主張が認められています。それにもかかわらず、残りの1か所により販売差し止めになるということは言論の自由を侵しかねない判断です」
版元には厳しい裁定だったが、「差し止め」が話題を呼び、書店では完売が続出。かえって本の注目を高めることになったようだ。
※週刊ポスト2017年1月27日号