「人生最大の幸福は一家の和楽である。円満なる親子、兄弟、師弟、友人の愛情に生きるより切なるものはない」とは、細菌学者・野口英世の言葉。いつも一緒にいるからこそ、見えないことがある。逆に、意外な部分を見てくれている。家族といえど、お互い思いやりを持っていないと絆は簡単に壊れるもの──。46才の会社員女性が、家族の愛のエピソードを告白します。
* * *
娘が小学6年生の時に、夫を交通事故で亡くしました。1週間ほど部屋に閉じこもって泣いてばかりいましたが、娘のためにも働かなくてはいけません。フルタイムの事務職につきました。
その職場の上司のAさんが、私の家庭環境を理解してくれて、よく声をかけてくれました。いつしか仕事終わりに2人で会う回数が増え、結婚を前提につきあいたいと告白されるまでに。私は喜んで受けました。好きだという気持ちもありましたが、将来の不安もあったからです。
この時、娘は高校生。多感な年頃だったため、交際については黙っていました。
そんなある日、「バイト代が入ったから、お母さんの誕生日に、ごちそうをしてあげる」と娘に言われました。これは彼を紹介するチャンスだと思いました。
そして誕生日。私は娘に内緒で店にAさんを呼んでいました。正装した彼は先に席に座っていました。娘がそれを見るなり、表情を硬くしたのがわかりました。それでも、思い切って彼を紹介すると、娘は肩を震わせながら、「2人で祝えると思ったのに!」と、走って帰ってしまいました。
私は娘の気持ちを考えていなかったことを後悔しました。Aさんには、これ以上つきあえないと伝え、会計をしようとすると、すでに済んでいると言われました。そして店の人からメモを渡されたのです。そこには、「さっきはごめんなさい。ディナーは私からのプレゼントです。新しいお父さんと楽しんでください」と書かれていました。私より先にAさんが涙を流してくれました。
私たちは籍を入れ、今は3人で仲よく暮らしています。
※女性セブン2017年1月26日号