韓国・釜山の日本総領事館前に新たな「慰安婦像」が設置された。2015年12月28日に慰安婦問題日韓合意が結ばれてからおよそ1年あまり。日本国内ではこの件については「合意違反」との声が強まる中、韓国では合意破棄の声が高まっている。だが、これは驚くほどのことではない。
これまで韓国が日本との合意を反故にしたのは、一度や二度ではないのである。1993年8月4日の慰安婦募集に軍の関与を認めた河野洋平官房長官の談話、いわゆる「河野談話」は、日本側が公式に謝罪すれば韓国は矛を収めるという合意があったからだが、韓国は全く変わらなかった。
1995年に村山政権下で創設された「女性のためのアジア平和国民基金」による元慰安婦らへの「償い金」の支給に対して、慰安婦像設置で暗躍した挺対協(韓国挺身隊問題対策協議会)は「受け取れば、自ら進んで行った売春婦と認めることになる」と元慰安婦らを恫喝して妨害し、結局、何の解決にも至らなかった。
そして今回もまた、挺対協の仕掛けによって、最終的だったはずの合意が覆されようとしている。
これには、在日韓国人の朴一・大阪市立大学大学院教授(経済学研究科)も厳しい見方をする。
「日本は、慰安婦像の撤去を補償事業の交換条件としましたが、挺対協は慰安婦問題を後世に語り継ぐために慰安婦像を設置したのであり、日本には迷惑を掛けていないという理屈だから通じません。しかも、韓国国内では朴槿恵(大統領)と(友人の)崔順実で日韓合意を決めたという見方から反日の火が収まりそうにない。
しかし、国際的に見れば外交で相手国との約束を反故にしたわけですから、今後、韓国は日本からだけでなく、世界から信用されない国になってしまいかねない。残念でなりません」
果たしてこの国との外交に活路はあるのか。韓国政治を専門とする新潟県立大学の浅羽祐樹教授はこう指摘する。
「非常に面倒な隣人ですが、朝鮮日報や東亜日報など保守系メディアは『さすがに国際合意は遵守すべき』との論調で、韓国政府も自らの落ち度を認めています。日本としては、『慰安婦像の設置は在外公館の安寧や威厳を守る責務を定めたウィーン条約に違反している』といった正しいメッセージを冷静に伝えていくべきです」
かの国にそのメッセージを冷静に受け止める姿勢があればいいのだが、もはやそんな期待を抱くことさえバカバカしく思えてくる。
※週刊ポスト2017年1月27日号