入学金や授業料の高さから受験を諦める子供も多かった私立高校だが、自治体支援により“無償化”の動きが広がっている。東京都は世帯年収760万円未満の都民を対象に、独自の給付型奨学金を拡充。2017年度より私立高校の授業料を実質無償化にする方針を決めた。
だが、この負担軽減により、本当に学校選択の自由が生まれ、誰もが公平な教育を受けられるようになるのか。安田教育研究所代表の安田理氏に聞いた。
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──私立高校の無償化をどう見る?
安田:私立高校への進学は、よく電車の種類に例えられます。「普通列車」の公立高校があるのに、わざわざ私立へ行くのは、「グリーン車」に乗って旅に出るようなもの。だから、補助は要らないという考え方です。
しかし、実際は第一志望の公立高校に落ちて私立に行かざるを得なかった人もたくさんいます。大学合格率の高い難関公立ほど、塾へ行ったり教材を買ったりとお金をかけなければ合格できないので、結局はお金をかけられなかった層も私立に行っている。無償化はそうした人たちを救う制度だと思います。
──年収条件の760万円未満は妥当なのか。一部では「もっと下げるべき」との声もある。
安田:私学にかかるお金は、学校によってものすごく格差があります。例えば、入学金や施設費を含めた初年度納入金(東京都生活文化局調べ/2017年度)を見ると、59万円の東洋女子から、188万6000円の玉川学園高等部(IBクラス)まで大きな開きがあります。
はっきり言えば、初めから入学金や学費の高い学校に子供を入れようとする家庭は、年収条件も含めて今回の制度はまったく関係ないといっていいでしょう。
──確かに無償化とはいえ、給付の上限は年間授業料の平均額にあたる44万2000円だ。
安田:都内の私立高校は、年間の授業料だけ見ても下は33万円、上は133万円と100万円も差がありますからね。
そのうえ、私立高校は授業料以外にも、海外留学や修学旅行、部活や芸術鑑賞など、いろんな体験をさせる行事が多く、お金もかかります。もちろん、そうしたお金は実費なので、単純に授業料だけ無料になっても、それだけで私立に人が流れるか──。ご家庭の判断はそう簡単にはいかないでしょう。