実年齢では測れない本当の健康状態をもとにした「健康年齢」で保険料が決まる医療保険が発売されて話題となっている。一方、医学界でも、実年齢とは異なる基準の研究が進んでいる。そのひとつが「血管年齢」だ。
エコー(超音波)で頸動脈の血管の厚みを観察し、そこから健康状態を数値化するものだが、すでに多くの医療機関で採用されており、受診者の数も年々増えているという。新潟大学名誉教授の岡田正彦氏(医学博士)の話。
「血管年齢を決める要因として、エラスチンとコラーゲンという血管内の2つのタンパク質の存在が大きいことが最新の医学研究で明らかになっています。エラスチンは血管の柔軟さを決定づける物質で、加齢とともに減少。コラーゲンは逆に血管の強度を保つ物質で、年齢とともに増えていきます。両物質の増減には加齢だけでなく、遺伝的要因、さらに生活習慣が大きく影響していることもわかっています」
実際、抗酸化物質である野菜や果物を多く摂り、日常的に運動をしている人はエラスチン減少とコラーゲン増加のスピードが緩やかになり、血管年齢が実年齢より低いという。
血管の老化には、これら2つの物質の増減だけでなく、動脈硬化症の有無なども関係してくる。
「脳年齢」測定も普及が期待されている。現在もMRI(磁気共鳴画像)検査で脳の老化の進行具合が測れるが、今後はさらに精密な測定が可能になるという。昭和大学客員教授で医学博士の加藤俊徳氏が話す。
「脳年齢も高齢になると、実年齢と開きが出てくるケースが多いと考えられています。精密な年齢測定法はまだ確立されていませんが、今後、一般の病院で手軽に脳年齢が測定できるようになれば、脳機能の中でも老化の進んだ分野がどこかを特定でき、認知症予防や脳の運動機能の改善に繋げることが可能となる」
健康年齢に加え、血管年齢や脳年齢などの新たな健康基準を知ることが今後は重要になってくる。いまや医学界では“年齢神話”が崩壊しつつある。前出・岡田氏が言う。
「医学界にはある年齢を境に健康や身体機能が極端に悪化するというデータはなく、また年齢とともに疾病リスクが加速度的に増すというエビデンスもない。医学的にわかっているのは、高齢になると“老化が進む人”と“いつまでも元気な人”の個人差が開くという事実のみ。だからこそ、個別に自身の健康状態を知る必要がある」
今や「高齢者」を年齢で定義できないように、病気リスクも年齢では線引きできないのである。
※週刊ポスト2017年1月27日号