国民の4人に1人以上が65歳以上という超高齢化が進む中、日本老年学会等でつくるワーキンググループ(WG)が、「日本人は若返っている」という理由で高齢者の定義を「75歳以上」に引き上げるべきだと提言した。年金問題に詳しい“年金博士”こと北村庄吾・社会保険労務士はこう受け止めている。
「高齢者の定義を75歳以上にするのは、国民に“65歳を過ぎてもまだまだ働かなければならない。74歳までは年金をもらっている場合ではない”という意識を持たせるための世論誘導でしょう。いよいよ年金受給開始年齢引き上げのXデーに向けた準備が始まったと感じます」
政府が狙っているのは、現在65歳の年金支給開始年齢を最終的に「75歳」まで大幅に引き上げることだ。
実は、3年前の2014年5月、田村憲久・厚労相(当時)がNHK討論でその地ならしとなる重要な発言をしている。
「75歳まで(年金受給開始年齢の)選択制を広げる案が与党から出ており、一つの提案だ」
それまで政府の社会保障審議会では年金の70歳支給への引き上げは議論されてきたが、厚労大臣が選択制とはいえ、「75歳支給」に言及したのは初めてだった。
今回のWGの「高齢者は75歳以上」の提言とピタリ一致する年齢だが、偶然とは思えない。
日本老年学会と日本老年医学会によるWGが設置されたのは第2次安倍政権発足翌年の2013年だが、その第1回会合(9月11日)では、早くもメンバーから高齢者年齢を「身体的衰えが進みやすい75歳以上(とするの)はどうか」という意見が出されていた(読売新聞2013年9月19日報道)。
最初から「75歳」ありきで議論が進んできたことがうかがえるのだ。内閣府も歩調を揃えてきた。2014年12月に60歳以上を対象に「高齢者とは何歳以上か」を尋ねる意識調査を実施し、70歳以上(約29%)、75歳以上(約28%)という回答が6割近くに達したと公表した。
そして2015年4月から政府は企業の雇用義務を65歳に延長、さらに昨年は小泉進次郎氏を小委員長代行とする自民党財政再建特命委員会の「2020年以降の経済財政構想小委員会」が、65歳という高齢者の定義を見直し、定年制を廃止する提言をまとめている。
そうした政府・自民党あげた“75歳まで働けるキャンペーン”を受け、満を持して今回の日本老年学会の提言が発表されたのだ。
※週刊ポスト2017年1月27日号