解散は総理大臣だけに与えられた「専権事項」であり、「伝家の宝刀」である。ゆえに歴代首相も「ここぞ」という場面でその刀を抜き、威光を示した。だが安倍晋三首相はまるでおもちゃのようにその刀を振り回し、その“チャンバラ遊び”に周囲は本気で脅え、震えている。
解散時期は、派閥の跡目争いにも影響する。こちらの“主役”は安倍3選を可能にする総裁任期延長で功績を挙げた額賀派の茂木敏充・政調会長だ。
総選挙後には衆院議長が交代するのが慣例。次の議長候補だった谷垣禎一・前幹事長が病床にあることから、代わって額賀派会長の額賀福志郎氏が有力候補に挙がっている。
ここで解散になれば茂木氏にはチャンスだ。
「額賀氏が議長になれば離党しなければならないから派閥の跡目問題が起きる。役職経験からも有力なのは茂木さんで、派閥領袖になれば石破、岸田と並ぶポスト安倍の有力候補に浮上できる。慎重な人だから表立って言わないが、選対委員長時代から早期解散準備をしていた」(自民党選対幹部)
一方、衆院選となれば交代が確実視される現衆院議長の大島理森氏は解散反対のようだ。国会ではこれから皇室会議のメンバーでもある衆参の正副議長による天皇の生前退位をめぐる協議が始まる。まさに「歴史的事業」を前に、議長の座を失いたくないはずだ。
安倍政権中枢の解散慎重派は菅義偉・官房長官。昨年の参院選前にも、衆参同日選を考えていた安倍首相を「せっかく衆院の3分の2の議席があるのだから、議席を減らすリスクのある解散はすべきでない」と思いとどまらせたとされる。
「いま解散なら政敵の二階幹事長が選挙を仕切ることになる。菅さんの本音は、いずれ解散しなければならないなら、次の内閣改造で幹事長となり、自分の手で総選挙を仕切りたいと考えている」(菅氏側近)
こう見ると、永田町で解散風が止まらないのは、解散時期が党利党略ではなく私利私欲に深く結びついているからだとわかる。