増加する高齢者の健康面をサポートするため、自身も高齢でありながら活躍する医師たちがいる。御歳93歳の医療法人畑医院院長・畑靖子氏は、今も院長を務める埼玉県上尾市の病院に出勤し、毎日30人以上の患者を診ているという。80代後半で骨折したこともあったが、「医師を辞めようと思ったことはない」と話す。
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6年前の東日本大震災の時、病院にいた患者さんを避難させようとして、「庭に出てください」と誘導していたら、自分が転んで大腿骨を骨折し、入院することになってしまいました。両脚とも人工骨頭を入れ、今も杖を突きながら生活しています。それでも医者を辞めるということはちっとも考えませんでしたね。こうして働いていることがこの年齢まで過ごせた唯一の健康法なのですから。
ただ重い病気を患って入院することになれば、その時は60年以上働いてきたこの病院を閉めるしかありません。世の中、思い通りにはいきませんし、なるようにしかならないので、それはそれでいいかなと考えています。
自分の死に関しても、これといった心構えはありません。「断捨離する」といって、お皿とお茶碗とお箸だけを残して後は処分してしまった人もいますが、私は「不要不急」の、いつ要るのかわからないようなモノに囲まれて生活しています。
私が死んだ後は後始末が大変だろうと思いますけど、後始末というのは、遺された人が亡くなった人の思い出をひとつひとつ整理していくことで片づいていくものだと思うので、「遺すのもいいかな」と思って贅沢をさせていただいています。
人間は神の摂理によって生きているものなので、死に方も選びようがありません。ただ、「自然死」が人間にとっての理想だとは思っています。一昨年の夏に先輩2人と同期1人を亡くしましたが、みなさん今際の際に「苦しいですか」と聞くと「苦しくないわ」といいますし、「眠いの」と聞くと「眠たくないわ」とおっしゃっていました。
そして亡くなる数分前までおしゃべりをして、ゆったりと微笑ましい表情を浮かべて逝かれました。自然死というのは、人間に与えられた本当に素晴らしいものだと実感しています。私も先輩方のように、安らかな気持ちで逝きたいですね。
※週刊ポスト2017年1月27日号