今年1月5日、日本老年学会、日本老年医学会という老年研究の権威たちによるワーキンググループ(WG)が、従来の65歳以上ではなく「75歳以上」を高齢者と区分することを提言した。WG座長の大内尉義・虎の門病院院長は記者会見で、「提言が年金支給年齢の安易な引き上げなどにつながらないようにしてほしい」と語ったが、学会の高齢者年齢引き上げの議論が政府の年金見直しや高齢者雇用延長議論と同時並行で進んできたことは否定できない。
年金問題に詳しい“年金博士”こと北村庄吾・社会保険労務士が語る。
「政府は確定拠出年金法を改正し、今年から専業主婦でも国民年金と別に自分で保険料を払う確定拠出型年金に加入できるようにしました。また、同じタイミングで雇用保険の対象を拡大し、65歳以上でも職を失えば失業手当を受給できるようにした。
公的年金支給開始を遅らせる場合、その間の生活の糧が必要になる。そのために65歳以上に雇用保険適用を拡大し、国民が自分で積み立てる私的年金にも加入してもらおうという発想です。学会の75歳高齢者の定義見直し発表はまさにこれに合わせたようなタイミングだったのです」
学会のWGメンバーには、政府の社会保障審議会などの委員経験者や厚労省などから研究助成を受けている学者が少なくない。そして、年金支給開始年齢引き上げという“国策”を進めていく上で、あまりに都合の良い発表であることも間違いない。
政府にとって年金財政に負けず劣らず火の車なのが医療費だ。国民医療費は1989年度の約20兆円から2016年度は42兆円を超えると予想されている。
「政府は20年たらずで医療費が2倍以上になるとは予想していなかった。その削減は年金以上に急務になっている。現在の医療制度の窓口負担は、現役世代から70歳未満は原則3割、74歳までは2割、75歳以上の後期高齢者は1割負担だが、高齢者年齢を引き上げることで、『75歳未満は全員、窓口3割負担』に引き上げられる流れでしょう」(北村氏)
では、高齢者の定義が「75歳以上」に引き上げられ、65~74歳の1752万人が「現役」と見なされて年金、医療などの高齢者福祉が受けられなくなった場合、当事者にとってどれだけの損失になるのだろうか。シミュレーションした。