高齢者の年齢を75歳に引き上げる提言が話題だ。現行の定年よりも「まだまだ働けるし働くべきだ」ということなのか。しかしシニアの働き方には、体力や健康、趣味、年金、人生観など、様々な問題が絡み合う。ゆえに、「働きたい」か「リタイアしたい」かの理想はそれぞれだが、実際には「働きたいのに働けない」「働きたくないのに働かなければいけない」という人が多いのが現実だ。経済学者の宮本勝浩・関西大学大学院教授(72)がいう。
「私の場合、大学教授という仕事だから70歳を過ぎても働けるし、体力的にも続けられます。学生たちと話をすることで若さをもらえるので、できればずっと続けたい。でも、同窓会に出ると、同級生はほとんどがリタイアしていて、『お前は仕事があっていいな』と羨ましがられます。健康な人は働きたいと思っているのですが、この歳で新しく仕事を始めるのはハードルが高く、地方だと求人も少ない」
実際に、電通総研が2015年に実施した「シニア×働く」調査によると、60代男女の3人に1人が「働きたいが、働いていない」、逆に、4人に1人は「働きたくないが、働いている」という結果が出ている。つまり、趣味に近い、あるいは自分のキャリアを生かせる「やりたい仕事」ができるシニアは限られているのだ。
『60歳からの仕事』の共著者で、シニアの雇用問題に詳しい長嶋俊三氏が語る。
「定年後に働いている人たちも、多くがパートやアルバイトなどに従事しているのが実情です。企業としてはシニアよりも若者に投資をしたいと考えるので、シニアに回ってくるのは“若者が嫌う仕事”。体力が落ちる中で、清掃や警備員、駐車場管理など、体を使う仕事しかない。
シニアの雇用内容や雇用条件、年金、医療などの根本的な見直しが行なわれないまま高齢者年齢が引き上げられれば、働きたいシニアの理想と現実は乖離してしまうでしょう」
※週刊ポスト2017年1月27日号