白い三角の帽子をかぶったKKKの男が表紙になっている。おおかたの予想をくつがえしてトランプが大統領になったいま、気鋭の評論家、町山智浩は著者『最も危険なアメリカ映画』で、トランプとその支持層が体現している人種差別、人権無視、好戦的愛国主義が、実はアメリカの歴史の流れのなかに確実に存在しているとし、それをアメリカ映画のなかで見てゆく。
例えば、草創期のD・W・グリフィス監督の「國民の創生」(一九一五)は、それまで安っぽい見世物だった映画を、大人の鑑賞に堪える芸術にした作品として映画史上に残る大作だが、この映画は、徹底した黒人差別、白人優位主義を取っていて、なんとKKKを悪い黒人を征伐する善玉として描いている。
まさに「史上最悪の名画」。町山氏は、どんなに映画史的には価値があろうとも、ひどい映画はひどいと言う。姿勢がはっきりとしていて気持がいい。
町山氏はアメリカ在住。そのために情報が豊富。まだ先住民への差別が強かった一九二〇年代のサイレントの時代に、先住民の立場に立った「滅び行く民族」(一九二五)という映画が作られていたとは、はじめて知った。良心的な映画人もいたのである。
それでもいまならトランプ支持者を喜ばせる映画は相変らず作られ続けた。第二次世界大戦中、ディズニーは「空軍力による勝利」(一九四三)というアニメを作ったが、そこではアメリカの大型爆撃機が東京を空襲するよき未来が描かれている。さすがにこのアニメは日本では公開されていない。ディズニーは親ナチだったという。
日本ではゲイリー・クーパーとパトリシア・ニールの恋愛映画と思われていた「摩天楼」(一九四九)が、実は優れた個人が大勢の凡庸な大衆を見下す、アンチ・リベラルの映画だという指摘も目からウロコ。原作者のアイン・ランドという女性作家は、反共主義者で赤狩りの支持だったというから驚く。
町山氏は、映画のなかにアメリカ社会の歪み、暗部を見てゆく。その結果、それまで、ただ「明るく、楽しい」と思われていたハリウッド映画が、決してそれだけでは語れないことが分かってくる。
「バック・トゥ・ザ・フューチャー」や「フォレスト・ガンプ」の批判も日本では語られなかったことで読みごたえがある。
●文/川本三郎
※SAPIO2017年2月号