日本一の古書店街、東京・神田神保町に、女優やアイドルの写真集・雑誌・グッズの専門店がある。1971年創業の荒魂書店(あらたましょてん)だ。アダルト系商品を扱う本店と、アイドル・女優系商品を主とする新店があり、その品揃えは3万点以上。天井まで伸びる棚にびっしりと写真集が並ぶ新店は、海外からも客が来店するほどの人気を博している。3代目店長の鎌田俊一氏(41)が店の来歴を明かす。
「もともと近代文学や歌集の古書店として創業し、店名は小説家・石川淳の小説『荒魂』から拝借したそうです。先代の社長が荒木経惟さんの写真集に魅了されて集め始めたのをきっかけに、25年ほど前から、徐々にアイドルもの中心の品揃えになっていきました」
1980年代、タレント写真集は初版1万部程度で、増刷は稀だった。だが、1991年にヘアヌードが事実上解禁され、樋口可南子の『water fruit』が55万部、宮沢りえの『Santa Fe』が155万部を記録。写真集が売れる時代が到来したことで、それ以前のセクシーな絶版写真集が“お宝”と注目を集め、一大ブームが起きる。荒魂書店はその時代の流れにうまく乗った。
鎌田氏は大学在学中の1995年、将棋部の仲間に誘われて荒魂書店でバイトを始め、そのまま就職。10年前に店長になった。商品の入手ルートは個人からの買い取りと、市場での仕入れの2種類。
「神保町にある古書会館で開かれる市場で週1回仕入れています。他の古書店が出品したものに入札し、うちが一番高い値段であれば入手できる。意外な掘り出し物が見つかることもあります」
古書店員歴21年の間には、忘れがたい買い取りもあったという。
「アイドルコレクターが亡くなられて、ご遺族の依頼で自宅に伺い、1000冊以上を買い取ったことがあります。1部屋が写真集で埋め尽くされていて驚きました。ご遺族は『早く片付けてくれ』という感じでしたね(笑い)」
タレントの書き込みが残るドラマの台本を売りに来た人もいれば、石川秀美が1985年に受賞した『日本歌謡大賞 放送音楽賞』のレコード会社製作の記念盾を持ち込んだ人もいた。
一方、購入目的では、「若い頃、私が出ていた雑誌のグラビアが欲しいの」と訪れるタレントや、自分の作品を探しに来るAV女優もいたという。写真集を長年見てきたことで、後世に残る作品の共通点も分かり始めた。
「人気の持続する写真集は、セクシーなカットを集めただけに終わらず、カメラマンが必ず自分のカラー、個性を出しています。だからこそ数十年経っても評価されるアート的な作品になっています」
※週刊ポスト2017年1月27日号