日本老年学会等でつくるワーキンググループ(WG)が、1月5日に、従来の65歳以上ではなく「75歳以上を高齢者」と区分する提言を発表し、波紋を広げている。「日本人は若返っている」という理由からだというが、政府の動きとあわせて、最初から「75歳」ありきで議論が進んでいたのではないかとの疑念がぬぐえない。提言は最初から「社会保障費削減」という国策実現のためのものではないのか。
日本老年学会理事長でワーキンググループ座長の1人、甲斐一郎・東京大学名誉教授にぶつけた。
──高齢者の定義見直しを提言した狙いは何か。
「私どもは国の機関ではない。あくまで老年学の学問の対象とする高齢者を75歳以上にしてもよいのではないかという提案です」
──年金など増大する社会保障費を削減するための布石という指摘もある。
「国民一般に向けて発信する形を取っているので、そう見られることは仕方がないですね。政府の委員会の人が提言を見て、年金支給年齢引き上げの根拠にする専門家がいてもおかしくはない。ただ、私たちにとって本意ではありません。
(WGの)メンバーには政策の研究者や社会学者も入っているが、財政や労働法の専門家はいないので、年金、定年延長、医療費負担などについては守備範囲外で、なにかいうつもりはない。ネガティブな影響が出ないようにしていただきたい」
──年金、医療財政が厳しいと政府が強調している中での提言だけに、議論を呼ぶのは当然ではないか。
「われわれもそれは否定しません」
日本人の若返りと生活負担増の中で、「高齢者」の定義から弾かれた65~74歳のシニア世代は、これからどう生活・人生設計を組み立て直すかを改めて問われる。
※週刊ポスト2017年1月27日号