人類は老化を止められるかもしれない。そのメカニズムを発見したのはNASA(米航空宇宙局)。一体、どのようなものなのか。
宇宙では地球上よりもはるかに早いスピードで老化が進む。JAXA(宇宙航空研究開発機構)によると、宇宙飛行士の骨密度は、骨粗鬆症患者の10倍早く減少し、骨折や血中に溶け出したカルシウムによる尿路結石のリスクが高くなる。
また、宇宙ではふくらはぎの筋肉が毎日約1%ずつ細くなるが、この減少量は、地上にいる高齢者の筋萎縮の半年分に相当する。
急激な老化への対策はNASAの長年の課題だった。そして研究の結果、ついにその原因をつきとめたという。それを踏まえた対策を取れば、老化を遅らせることができる。ポイントは「耳石」だ。
耳石とは、耳の奥にある極小の粒のこと。耳石が重力で引っ張られて移動すると、人間は体の傾きを感知する。耳石は「三半規管」と並び平衡感覚の基盤となり、「平衡石」とも呼ばれる。
NASAエイムズ研究所の元研究員で、東邦大学医学部客員教授の三井石根医師が「耳石と老化の関係」を解説する。
「重力のある地上では、姿勢を維持するために腹筋、背筋などの『抗重力筋』が常時働いており、耳石が動いて体の傾きを感知したら、足を一歩前に出して踏ん張るなど、筋肉が反射的に動いて姿勢を維持します。ところが、無重力では耳石が浮いたままで動かないため、骨や筋肉が使われず急速に萎縮して衰えていきます」
医学博士の村上一裕氏も耳石が動かないことのリスクを指摘する。
「耳石が働かないと骨や筋肉だけでなく、自律神経や心臓の動き、コレステロールの代謝など、人体の様々な部分に影響します。無重力で人体が老化するのは、老化を防ぐ“若返りスイッチ”の耳石が活発に働かないことが大きな要因です」