高齢者の年齢が引き上げられると、現行の定年よりもまだまだ働けるし、働くべきだということになる。一生、働いていたいと意欲を見せる人も少なくないが、一方、“早くリタイアしたい派”の思いも強い。
「60歳でリタイアして、趣味の山登りを存分に楽しむつもりでした。“70歳までなら、この山にも登れるな”なんて計画を立てたり、仲間を募ったり。それに合わせて人生設計をしてきたのに、65歳まで定年を延長されたあげく、今度は75まで働けなんて……。ホント、勘弁してほしい」(62歳・製造業男性)
会社役員も務めた73歳の男性はこう語る。
「企業の買収や統合には緊張感が伴うので、役員を続けるのは精神的に大変でした。ましてこの歳になると、健康面でも個人差が大きくなる。私は持病がいろいろあるし、体力もない。だから68歳になった時に『これ以上は無理』と言って、きっぱり辞めました。いくら平均寿命が伸びたからといったって、一律に『75歳まで』なんて無茶ですよ」
八柳良介氏(66)は、10年前に三洋電機を早期退職した後に、群馬県で竹細工の講師を始めた。
「広報職の部長をしていましたが、社内でリストラが始まった時に『自分がしたかった暮らしをするいい機会だ。もう30年以上も勤め上げたから、後は楽しく暮らしたい』と思い、退職することに決めました。
自宅で家庭菜園や日曜大工などを楽しむうちに、『自宅に生えている竹を使って何かできないか』と思い立ち、竹細工の教室に行きました。すっかり竹細工の魅力にはまり、講師になった今の生活が、人生で一番楽しいです。生徒さんもいるし、愛好会を通じて人とのつながりも増えました。会社を辞めて竹細工を始めて良かったと思います」
※週刊ポスト2017年1月27日号