景気指標も株式投資の役に立つ?
株価への影響が大きい経済指標としては、日銀短観やGDP(国内総生産)などが挙げられるが、近年投資家の注目を集めているのが「街角景気」とも呼ばれる「景気ウォッチャー調査(以下景気W調査)」だ。これは2000年に始まった新しい調査で、市井の景気動向を知るのに役立つ指標なのだが、この調査結果を株式投資に活用することもできる。
本来なら、株価は景気に先行するので景気指標は株式投資の役には立ちにくいとされている。ところが、景気W調査の現状判断DI(内閣府が景気ウォッチャー調査に基づいて発表する景気の現状に関する指標)は景気の谷に3か月ほど先行する傾向があるのだ。
というのも、企業の経営者を対象としている日銀短観とは異なり、景気W調査はタクシー運転手やデパート・コンビニ・スーパーなどの店員、商店主、大学の就職担当者や求人雑誌の編集者など消費や雇用の最前線に立つ人々の景況感を集めている。中小企業の従業員も多く、生産だけでなく受注や引き合いの動向も知る立場にあり、企業決算に反映されるずっと前の景気の方向性を肌で感じているのだ。
景気W調査ではこうした人たちの声を月末に回収し、翌月の第6営業日にスピード公表しているため、先行性が非常に高いのである。
景気W調査と日経平均株価の動き自体に大きな相関性はみられないが、下落局面から上昇局面へ、あるいは下落局面から上昇に転じる「転換点」においては、高い確率で一致している。この特徴を株式投資に活かすことができないか、シミュレーションしてみた。
景気の現状を示す「現状判断DI」は50が中央値で、それを上回るほど景気は良く、下回るほど悪い。前月比マイナスが続いた現状判断DIがプラスに転じ、なおかつ1.0以上改善したら「買い」、プラスからマイナスに転じ、1.0以上悪化したら「売り」という売買シグナルを設定し、発表日の引け値で日経平均株価1単位を売買するというシミュレーションを2000年からのデータで試算した。
すると、これまで33勝22敗、累計で2万5370円の利益が出ていることになる。勝率でいうと6割なので特別に高いわけではないが、長期でこれだけの利益をあげているのだから、投資判断の参考に活用する分には悪くはないだろう。
この試算は反対のシグナルが出るまで持ち続ける設定だが、途中で利益確定するなどアレンジすれば勝率は上がる可能性もあり、日経平均に連動するETF(上場投資信託)などの売買に利用している投資家も少なくないようだ。調査結果は毎月第6営業日の原則14時以降に内閣府のウェブサイトで確認できる。
■宅森昭吉(たくもり・あきよし):さくら証券、さくら投信投資顧問のチーフエコノミストを経て、現在は三井住友アセットマネジメント理事・チーフエコノミスト。ESP景気フォーキャスト調査委員会(日本経済研究センター)委員、景気ウォッチャー調査研究会(内閣府)委員。著書に『ジンクスで読む日本経済』など。